思い出のマーニー

米林宏昌監督の『思い出のマーニー』が、いよいよテレビ初登場となります。
今回の放送に合わせて、例によって豆知識をまとめました。これまでにニュースサイトに掲載されたものを中心としているので、目新しいものはないかもしれません。関連書籍からのピックアップは、また後日……。



『思い出のマーニー』の舞台は北海道

思い出のマーニー

原作小説ではイギリスを舞台としているが、アニメ化にあたり舞台は北海道に変更された。
湿っ地屋敷のある湿地帯は、北海道の“藻散布沼(モチリップヌマ)”と“霧多布岬(キリタップミサキ)”などがモデルとなり、架空の湿地の村が作られている。

宮崎駿は瀬戸内を舞台にするよう提案していた

宮崎監督がスタジオに訪れた際「この物語の舞台は瀬戸内です。和洋折衷のお屋敷があって」などと説明しながら、ホワイトボードに絵を描いて示した。米林監督は「その絵がすごく『崖の上のポニョ』みたいな世界観で、イメージと違っていた」と違和感を抱いたという。
すでに舞台は北海道と決めており、皆で話し合った結果、「このまま北海道で行こうよ」と宮崎監督の提案は採用されなかった。

『思い出のマーニー』で宮崎駿監督の提案

冒頭5分の脚本に何か月も掛けている

思い出のマーニー

同作のヒロイン・杏奈は、「見えない輪の中にいる内側の人間」と「そこに入れない外側の人間」が存在すると考える多感な少女。あるシーンで感情を爆発させるまで、自分の中に閉じこもる「複雑な」彼女を描くのにはとても骨が折れたという。

その彼女を「最初の15分」で表現するために米林監督は、杏奈が絵を描くシーンを思い付いたというが、それにたどり着くまでに作画監督の安藤雅司や西村義明プロデューサーらと何度も会議を重ねたという。実際冒頭5分のシーンの脚本だけで「何か月も」要したとのこと。

米林宏昌が語るジブリの作品づくり

見どころは、マーニーと杏奈の描き方の違い

思い出のマーニー

本作はジブリ初のダブルヒロインとなっており、マーニーは米林宏昌監督が描き、杏奈は作画監督の安藤雅司さんが描いている。
見どころのひとつとして、鈴木敏夫さんは、平面的に描く米林監督と、立体的に描く安藤さんの違いを挙げている。

鈴木敏夫が語る『思い出のマーニー』の見どころ

マーニーの部屋の窓は、鉄格子のイメージ

思い出のマーニー

屋敷に閉じ込められているマーニーは、窓枠も鉄格子のイメージで描かれている。
米林監督は、防寒対策の二重窓を演出に利用しており、檻のように描くことで、よりマーニーが幽閉された少女という印象が強くなった。

背景美術のディテールにこだわっている

思い出のマーニー
実写映画の美術で活躍している種田陽平さんは、普段アニメーションを観ていて、ドアや椅子など細かなところがいい加減に描かれていることが気になったらしく、自分が美術をやるからにはちゃんとしたいと、ドアの蝶番のヒンジの位置から、取っての材質や窓枠の作りなどに凝ったという。

「TEAM NACS」が5人全員参加している

TEAMNACS チームナックス
『思い出のマーニー』の舞台は北海道ということで、北海道出身の演劇ユニット「チームナックス」の5人が、声優として参加している。
主な役どころとして、大泉洋は山下医師。森崎博之は冒頭に登場する美術教師。安田顕は寡黙な男の十一。戸次重幸はマーニーの父親。音尾琢真は町内会役員の役など。
このほか、湿っ地屋敷のパーティーシーンや、縁日のガヤで、チームナックスの5人は登場している。

マーニー役のオーディションのトップバッターが有村架純だった

思い出のマーニー 有村架純

杏奈とマーニーの声優は、300人くらいオーディションをしたけれど、初日のトップバッターに有村架純が登場し、米林監督はいきなり「彼女でいける」と思ったという。

ボツになったキャッチコピーが2つある

本作では、「あなたのことが大すき」というキャッチコピーが使われているが、以下のコピー案がボツとなっている。

「ふたりだけの禁じられた遊び」
「ふたりだけのイケナイこと」

いずれも、鈴木敏夫さん考案のコピー。

『思い出のマーニー』のボツになったキャッチコピー、2案

ポスターに宮崎駿監督が怒った

宮崎駿監督は、『思い出のマーニー』のポスターを初めて見たときに、「いまどき、金髪の女の子で、お客さんの気を引こうなんて古い!」と激怒している。

宮崎駿監督は『思い出のマーニー』のポスターにご立腹?

宮崎駿は『思い出のマーニー』に対抗したポスターを描いている

思い出のマーニー クルミわり人形展

ジブリ美術館で2014年5月~2015年5月まで展示されていた、『クルミわり人形とネズミの王さま展』のポスターは、『思い出のマーニー』と同じモチーフで描かれている。「おれなら、こう描くぞ」という対抗意識と思われる。
宮崎監督は、「麻呂は、美少女ばかり描いている。しかも、金髪の……」と批判しており、それは西洋に対する日本人のコンプレックスだとも指摘していた。

『思い出のマーニー』と『クルミわり人形とネズミの王さま』二枚のポスター

宣伝コピーは三浦しをんが手掛けている

思い出のマーニー

ポスターや新聞広告など使われた、「あの入江で、 わたしはあなたを待っている。永久に──。」という宣伝コピーは小説家の三浦しをんさんが考案したもの。
鈴木敏夫さんは、「これは、男どもが束になって掛かっても生まれない名コピーでした」と語っている。

『思い出のマーニー』宣伝コピーを、三浦しをんが手掛ける

ジブリ作品で初めて英語の主題歌が採用された

『思い出のマーニー』の主題歌を担当したのは、アメリカ在住のプリシラ・アーンさん。元々ジブリの大ファンであり、ジブリ美術館でコンサートをしたことが切欠で声がかかった。
主題歌に選ばれた『Fine On The Outside』は、プリシラさんが小さな地元の町からL.A.に移り住んだ学生時代に作られたもの。歌詞と映画のシンクロ率が高いことから、そのまま採用された。

初めて実写畑の美術監督が採用された

思い出のマーニー 模型

本作では、実写映画で活躍している種田陽平さんが美術監督を務めている。
これまでの制作方法とは異なり、大岩家の建物などは実際にミニチュア模型が作られ、作画に使用されるなど、ジブリに新しい風を吹き込んだ。
鈴木敏夫さんは、種田さんに色指定もやってほしかったと語っている。

大岩家は、建て増しで作られた家

思い出のマーニー 大岩家

大岩家は、清正がもともと一人暮らしをしていた家がベースとなっており、そこから何度も建て増しをしていった設定になっている。時間をかけて手づくりをし、娘が生まれると大改造して、長い時間をかけた歴史がある家になっている。

新婚旅行で作った風鈴

思い出のマーニー

清正が家の中から見つけてきた、「のりきろう」と書かれた風鈴は、大岩夫妻が新婚旅行先で作ったもの。

湿っ地屋敷は、宮崎駿の提案が影響を与えている

思い出のマーニー 湿っ地屋敷

宮崎監督が、湿っ地屋敷を「マーニーは蔵に閉じ込められたお姫様」と話したことで、美術監督の種田陽平さんは影響を受け、マーニーの部屋は堅牢な石造りとなった。

『思い出のマーニー』美術監督・種田陽平インタビュー

キャラクターの初期イメージが、大きく違う

思い出のマーニー 十一 大岩夫妻

初期設定で、十一は老人として描かれており、大岩夫妻も年齢が高く風貌も違う。
左から、十一、大岩清正、大岩セツ。

杏奈の義母、佐々木頼子

思い出のマーニー 佐々木頼子
杏奈の義母、佐々木頼子。49歳。7年前の42歳のときに、まだ5歳だった杏奈をひきとって育てている。それまで勤めていた仕事をやめて、子育てに専念できるよう杏奈に時間を使い「母親」をやってきた苦労人。

マーニーの母親

思い出のマーニー マーニーの母親
派手な暮らしを好み、妖艶な雰囲気を漂わせている。自分の娘への関心は薄く、教育は使用人に任せている。

マーニーの父親

思い出のマーニー マーニーの父親
金髪と青い瞳で、マーニーは父親の血を強く受け継いでいる。普段は仕事で忙しく、家には年に2回ほどしか帰ってこれない。

ばあや

思い出のマーニー ばあや
マーニーの世話係をしている。躾に厳しいが、両親のようになってほしくないという、親心を持っている。

「きのこの森」と「倒木の森」

思い出のマーニー

杏奈とマーニーがキノコを採りに行った森は、「きのこの森」と「倒木の森」の二つに分けて演出されている。
きのこの森を歩いていると、次第に植生が変わっていき、キレイな花の咲く小川のある「倒木の森」になる。
「きのこの森」は、ちょっと薄暗くて、樹皮も茶色やグレーに描かれている日本風の森。対する「倒木の森」は、樹皮も白っぽくなっており、メルヘンチックに描かれた洋風の森になっている。

寡黙な男性「十一」は、11人兄弟の末っ子だから十一

思い出のマーニー 十一

本作に登場する寡黙な「十一」は、11人兄弟の末っ子という理由で命名されている。
原作では、「ワンタメニー」という名前で、意味は「One too many」。11人兄弟の末っ子で、1人多すぎる、余分な子とされている。

「十一」は、11人兄弟の末っ子だから十一

宮崎駿・高畑勲の感想

宮崎駿監督と高畑勲監督がどのような感想を抱いたのか、多くは語られていないが、西村義明プロデューサーにより、『思い出のマーニー』を観た両巨匠の所感が明かされている。

宮崎駿「本当に頑張った。麻呂が、『1+1』が『5』の男ってことがわかった」

高畑勲「作画も、美術も、それ以降の工程もさすがはジブリだと言われるものを作った。ジジイが去った後、米林監督は、押しも押されぬジブリのエースだともてはやされるであろう。それはやぶさかではないし、祝福したい」

『思い出のマーニー』完成披露会見。宮崎駿・高畑勲が絶賛

鈴木敏夫の評価

公開前は、「ジブリらしい身近な魅力が帰ってきた」 と語っていたが、2016年に行なわれた対談のなかで本音が語られた。

鈴木:
僕らが『思い出のマーニー』という映画をやるときにね。あれはシナリオの決定稿を決めたところで僕の仕事は終えて、あとは若いプロデューサーと監督に任せたんです。それで放っておいたら、ある時「決定稿が上がりました」とシナリオを持ってきたんですよ。この本が、僕らが最初に決めたシナリオの3倍くらいの分量があったんです。ありとあらゆることを説明している本で、僕は愕然としました。心の声までちゃんとセリフにしてしゃべっている。「何でこういうことにしたの」と聞いたら、「最初の本は、原作から離れているから」というんですが、それは嘘だと思った。最初の本の方が明らかに原作に近い。だから「君たちのやったことは、原作の傍に寄って行くことによって、遠く離れてしまったよ」と言わざるを得なかったんです。

橋口亮輔監督×鈴木敏夫プロデューサー「映画にとって、新しい表現とは何か?この壮大で永遠の課題に、答えは出るか?」

『思い出のマーニー』の最終興行成績は35.3億円

ジブリ作品のなかでは、『魔女の宅急便』に次いで13番目の興行収入となっている。

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