シュナの旅

23日にNHK FMにて、『シュナの旅』のラジオドラマが放送されました。本作は、宮崎駿監督が描いた絵物語を原作として、世界初のステレオ・サラウンドで1987年5月2日に放送されたラジオドラマです。
今回の番組では、ドラマの放送後に鈴木敏夫プロデューサーから、当時を振り返ったコメントが紹介されました。



宮崎駿はラジオドラマが大好き

『シュナの旅』って、ぼくの情報だと、たぶん1980年前後。宮崎駿って人と延々付き合ってるんですけど、彼と出会ったのが1978年。そして、今日まで、すごい年数なんですけど。ちょうど彼が、映画を作ることが非常に難しくなって、それで『ナウシカ』の漫画をやる。その頃だったっていう気がするんですよね。それで、宮さんと話してたら、「絵物語」を描いてみたいっていうんで、始まったんですよね。で、彼は絵を描くときに、『ナウシカ』がそうであるように、中央アジアっていうのか、中近東っていうのか、あそこら辺の風景がなんでか知らないけど好きなんですよね。
ストーリーは、皆さんドラマを聴いてもらったからわかるんで、絵のほうなんですけど。いちばん覚えていることは、「この荒涼たる風景の中で」みたいな文章があるんですよ。ところが、絵を見てみると、緑がいっぱいなんですよね(笑)。それで、この人っていうのは、どうしても荒涼たる風景を描くのが嫌なんだなぁって思った。それが、もの凄く印象に残ってますね。

実は、『シュナの旅』は、そんなに長くなるつもりはなかったんで、当初文庫で世の中に出そうと、がんばってやってたんですけど、なかなか完成しなくて。それで、発売日が一月遅れ、二月遅れ、三月遅れ、やっと半年ぐらい遅れて出来上がったって、それはよく覚えてますね。で、いろいろやっているうちに、NHKさんが、これをラジオドラマにしたい。これは、ぼくはたぶん決まると思って。というのは、宮崎駿って人は、ラジオドラマを聴くのが大好きな人だったんですよ。
それで、NHKで、今もやってますよね、日曜名作座? ぼくらの頃は、森繁久彌さんがやってらっしゃって。僕もそれが大好きで、宮崎駿も大好きで。それで、ラジオドラマということで、非常に期待があったんで、「よろしくお願いします」って言った覚えがあるんですよね。

『シュナの旅』は『ゲド戦記』の翻案

実は、この『シュナの旅』っていうのは、その後、宮崎吾朗くんがル=グウィンさんの『ゲド戦記』ってのをやることになったとき、ぱっと思い出したんですよ『シュナの旅』を。どうしてかっていうと、宮崎駿はもちろんオリジナルで描いた。しかし、この『シュナの旅』っていうのは、基が『ゲド戦記』にある。ってことは、ぼくはなんとなくわかってたんですよ。ぼくが宮崎駿と知り合ったときから、彼は『ゲド戦記』のことを、いっぱい話してたし。ぼくも原作を読み込んでたし。
だから、『シュナの旅』の内容を見ていて、これは翻案だなと。これは、ル=グウィンさんの了解を得ていないから、露骨にやるわけにはいかなかったけれど、根底に流れている考え方、思想、そういうところは非常に『ゲド戦記』の影響を受けている。そういうことがあったんで、この『ゲド戦記』ってものを吾朗くんと作っていくときに、「吾朗くんさ、原作は『ゲド戦記』だけれど、『シュナの旅』を基にして作ろうよ」って。
『ゲド戦記』ってものがあって、宮さんが『シュナの旅』ってものを描いたわけで、そういうことでいうと、これは大きくいうと『ゲド戦記』だろうと。
そうすると、それを少し元に戻す、っていうくらいのつもりで『ゲド戦記』を作ったら面白いんじゃないかなって、ぼくは話した覚えがあるんですよ。
だから、クレジットにも、確か「原案」かな、この『シュナの旅』を入れてあって。もちろん、宮さんにも、ぼくは言っといたんですよ。それで、『ゲド戦記』が出来たときにですね、観るじゃないですか。その父である宮崎駿は当時、息子が映画を作ることに大反対だったんだけれど、いろいろあって完成までこぎ着けたんですけど。そして、完成披露試写を一緒に観た。そしたら、宮崎駿が出てくるじゃないですか。お父さんがなんて言うか、気になるわけですよ。それで、顔を見たら、難しい顔してるんですよ。
そういうときに、彼に話しかけられるといったら、ぼくしかいないんで。彼のとこに行って、「どうでしたか?」と聞こうと思ったら、向うから言い出しましたね。「ビックリした」って。「どうしたんですか、宮さん」って。「どうしてですか、おれが作ってもこうなった」って。ぼくは、腹の中で「そりゃそうですよ、あなたの描いた『シュナの旅』を基にしたんだから」っていうのがあるんだけれど、本人は気づいてないんですよ。事前に言ってあったんですよ? 言ってあったんだけど、もう忘れちゃってるんですよ。長い期間かけて作るから。それが、すごい印象に残ってますよね。

自由に想像できるのが、ラジオドラマ最大の面白さ

今振り返るとですよ、このラジオドラマ。耳だけでしょう。主人公の顔も風景も、具体化されてないわけでしょう。それを勝手に、自由に想像できる。やっぱり、ラジオドラマの最高の面白さって、そこだと思うんですよね。落語もそうですよね、ひとりの人がいろんな人物を使い分けて、いろんな説明はしてくれるんだけれど、ほんとうにいるわけじゃない。想像の世界。それが、ラジオドラマの最大の面白さですよね。

この『シュナ』でいうと、松田洋治さん、彼にはほんとうにお世話になっていて。なんで、『シュナ』で松田さんにやってもらったかって言うと、当然『ナウシカ』でアスベルをやってもらった、その印象が残ってた。それがやっぱり、いちばん大きいですよね。後に、『もののけ姫』でまた、松田洋治さんにやっていただく。そういうことで言うと、彼の芝居っていうのは、非常にありそうでない芝居だから。率直にものを言う人なんで、変な思い入れその他、入れないですからね。そういうことで言うと、彼にこれをやってもらったっていうのは、ぼくは正解だったんじゃないかなって気がしますね。彼、年を取っても、いつまでも若い感じでしょう。だから、これからどうなっていくのか、ますます頑張っていただきたいです。

シュナの旅
宮崎駿が描き下ろしたオールカラーの絵物語。1982年「アニメージュ」にて『風の谷のナウシカ』の連載を開始したのとほぼ同時期に描かれた作品。

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