2013年公開の、宮崎駿監督の新作『風立ちぬ』が、どんな作品なのか、これまでに出ている情報をまとめました。

原作は、モデルグラフィックスで連載していた、宮崎駿が描いた漫画『風立ちぬ』ですが、その基になっているものに、堀辰雄が書いた小説『風立ちぬ』があります。
内容は、零戦を開発した技術者、堀越二郎氏をモデルにしたラブストーリーです。



宮崎駿の言葉

雑誌等で、宮崎駿監督が『風立ちぬ』について語った内容のまとめです。

「今度僕がやろうとしてる作品は、一番やっちゃいけないと自分で思ってきたことなんですよね。ものすごいアナーキーなもので。いい映画になる確信は全然ないのですが」

 
「夢破れて年取ってクソジジイになったけど理想をもっていたから映画にできると思った」

 
「自分の描いたカット割を持った途端に、恐怖が走ることがあります。『何やってんだろう?』って。今度はほんとに行きつ戻りつが多いです。このカットは自分が恐怖で入れたカットだから削るとか。『ああ、なんで俺こんなカット入れたんだろう……これ、卑怯のせいだな』って」

 
「ファンタジーじゃないと思います。ファンタジー的要素はもちろんありますけど。でも、ファンタジーではない」

 
「今はファンタジーを作る時期ではない。(ファンタジーが)あまりに多く作られ過ぎて、ゲーム化している。だから我々がゲームを作ることはなかろうと。今こそ等身大の人間を描かなければ」

 
「関東大震災のAパートのラフコンテを切り終わった時に、震災が起こって。
やっぱり自然の動きにどつかれて動いてんじゃないかなって思ったし、そういうのも含めて、関東大震災を描くって覚悟したんです」

 
「今度の映画には大群衆シーンがいっぱい出てくるんですよ。これまでやらなかったことですよね」

 
「難しいんです、ものすごく! 今まで自分がやってきたことと全然違うことをやらなきゃいけないんで」

 
「『影なんか付けなくていい!』と『ポニョ』の時は言ってましたけど、『今度は影付きで行くぞ!』と思ってるんです。『とことん入れる! みんなそこで泣け!』と。『鼻血が出るぐらいやれ!』ってね。
せっかく30人も新人がいるんだから。その人間たちが、『ああアニメーションは酷いもんだ』と思ったほうがいい」

 

「戦争の道具を作った人間の映画を作るんですけど、スタッフにも女房にも『なんでそんな映画を作るんだ?』って言われて。俺もそう思うんですけど。だけど、歴史の中で生きるということはそういうことだと思うんですよ。それが正しいとか正しくないじゃなくて。その人間がどういうふうに生きたかっていう意味ではね」

 
「その男はその時の日本の、もっとも才能のあった男なんです。でも、ものすごく挫折した人間なんです。物造りを全うできなかったから、敗戦の中でね、ずたずたになっていったんですよ。でも僕は彼が『美しいものを作りたかった』ということをポツっと洩らしたということを聞いてね、『これだ!』と思ったんです」。

兵器を作ってないんです、この男は。その動機が結果的に、美しいものを作ったけど、それが高性能の武器だったという。ある意味では悲劇の主人公なんですよ。そういうふうに、技術者の生涯を考えると、ことの善悪は政治の世界が決めてることで、その人は精いっぱいやったのに挫折してるんです。だから非常に無愛想な、嫌なじじいとして生涯を終えるんです(笑)。けんもほろろのクソじじいになって終わってるんですよ。
それも含めてね、どういう煌めく才能だったんだろうっていうのに、興味があったんです」

 
 

鈴木敏夫の言葉

『風立ちぬ』制作発表会見で、鈴木敏夫プロデューサーが語った内容のまとめです。

「風立ちぬ」は一言で言うと、「堀越二郎」の話です。宮崎駿は戦争関係のものに対して非常に造詣が深く、堀越二郎という人を個人的趣味として色々調べてたんです。零戦を設計した人の生涯の話に、堀辰夫の恋物語をドッキングさせたらどんなお話になるだろう。そういうところから、始まりました。

堀越が10歳の少年時代から、物語は始まります。子供の頃から空に憧れて飛行機に乗りたかった少年が大人になった時、飛行機の仕事に携わろうと思った時に、時代は戦争の時代。そこで彼が作らなきゃいけないものが、艦上戦闘機だったという話なんです。

宮崎駿は昭和16年生まれ。戦争というものを避けて通れない。戦闘機とかタンクとか、みんなそういうものが好きなんです。ところが時代は日本が戦争に負けて、戦争反対の時代でもあるんです。宮崎駿は、その矛盾の中で生きた人なんです。自分の好きなものが引き裂かれているんです。一方で戦争の兵器、一方で戦争反対という。なんで自分みたいな人間が出来たんだろうということを映画の中で明らかにしたいと、そう話していました。そこが、映画の中でも非常に大きなテーマになってくるんです。

 

効果音は人間の声

※追記 2013.6.6
鈴木プロデューサーは『風立ちぬ』について、戦闘機などの音を人間の声で作ったり、音声をあえてモノラルで録音したりと、音にこだわった作品になっていると説明した。

人間の声で効果音を作るという試みは、宮崎監督の発案。アニメは実写と違い、劇中の音を後から作る必要がある。それ故にだんだんと神経質になってしまい、本物の音を再現する方向にエスカレートしてしまうのだ。

鈴木プロデューサー:
本物の音を再現することにどれだけの意味があるのか。大事なのはそれらしく聞こえること。そうしたら宮さん(宮崎監督)が声で効果音をやろうって言うから、賛成したんです。
ところが、次に宮さんが言ったのは『俺と鈴木さんの2人だけでやろう』と(笑)。
僕も口で音を作るというのは嫌いじゃないんだけど、音の専門家に話したら、まず我々がやりますからというので結局お任せしたんですよ。

重役会のシーンのアフレコで、宮さんが気に入らないから録り直そうと言い出したんですよ。
『鈴木さん、一緒に行こう』と言われて、2人でマイクの前に立って(アフレコを)やってみたのですが、音の責任者から却下されてすごすごと引き下がったということがありましたね(笑)。

 

『風立ちぬ』は宮崎駿の遺言

震災を描く形で完成した『風立ちぬ』。本編を見た鈴木プロデューサーは、本作を「宮崎駿監督の遺言では」と大胆に予想する。その理由は、本作の裏テーマにあるという。

鈴木プロデューサー:
この企画が動き始めたのが2010年。やろうと決断したのが同年12月でした。年が明けて2011年から絵コンテを描き始めたのですが、関東大震災の最中にちょうど二人が出会うシーンを描き上げたのが、2011年3月10日だったんです。その後、震災が起きたことで、さすがに宮さんもこのシーンをそのまま出していいのかどうか悩んでいました。
しかし、僕はそういうこと(震災)が起きたからといって、手心を加えるのは違うんじゃないかと思うんです。
映画は時代の影響を受けるものだし、逆に映画が時代を作ることもある。だからといって、あまりそのことにとらわれすぎるのはおかしいですから。

空や飛行機に憧れた少年が設計士になって、でも作らないといけない飛行機は戦闘機である。それを彼はどんな気持ちで作っていたのか。じゃあ民間機ならよかったのかというと、そういうことでもないだろうと。
宮さんはこの映画の裏テーマで、『仕事とは何か』を問いかけているんです。カプローニというイタリア人が出てくるんですが、彼が何度も『力を尽くして生きなさい』と繰り返します。
この言葉は旧約聖書から引っ張ってきたもので、元は「すべて人の手にたうることは力を尽くしてこれを成せ」というもの。宮さんはこの言葉に感化されんじゃないかと思います。

 
 

堀越二郎について

『風立ちぬ』の主人公、堀越二郎は実在した人物です。

堀越二郎
航空技術者。1903年6月22日生まれ。1982年1月11日、没。

三菱九六式艦上戦闘機の設計に於いて、革新的な設計を行う。
九六式艦上戦闘機や零式艦上戦闘機は、堀越二郎が設計チームを率いて完成させた。
戦時中は零式艦上戦闘機を含め、雷電、烈風と数は少ないものの、後世に語り伝えられる名機の設計を手掛けた。
堀越二郎自身は、零戦には一度も乗ったことはなかったという。
彼の発明した操縦系統のワイヤにわざと剛性の低い素材を使う方法などは、現在でも高い評価を得ている。

戦後は木村秀政らとともにYS-11(日本航空機製造が製造した旅客機)の設計に参加。
三菱重工業を退社した後は、東京大学宇宙航空研究所講師(1963年 – 1965年)、防衛大学校教授(1965年 – 1969年)、日本大学生産工学部教授(1972年 – 1973年)として教鞭を取った。

 
 

『風立ちぬ』(小説)

堀辰雄の中編小説。作者本人の体験をもとに執筆された堀辰雄の代表的作品。

美しい自然に囲まれた高原の風景の中で、重い病(結核)に冒されている婚約者に付き添う「私」が彼女の死の影におびえながらも、2人で残された時間を支え合いながら共に生きる物語。時間を超越した生の意味と幸福感が確立してゆく過程が描かれ、風のように去ってゆく時の流れの裡に人間の実体を捉え、生きることよりは死ぬことの意味を問うと同時に、死を越えて生きることの意味をも問うた作品である。

 
作中にある「風立ちぬ、いざ生きめやも」という有名な詩句は、ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』の一節”Le vent se lève, il faut tenter de vivre”を、堀辰雄が訳したものである。

「風立ちぬ」の「ぬ」は過去・完了の助動詞で、「風が立った」の意である。「いざ生きめやも」の「め・やも」は、未来推量・意志の助動詞の「む」の已然形「め」と、反語の「やも」を繋げた「生きようか、いやそんなことはない」の意であるが、「いざ」は、「さあ」という意の強い語感で「め」に係り、「生きようじゃないか」という意が同時に含まれている。

ヴァレリーの詩の直訳である「生きることを試みなければならない」という意志的なものと、その後に襲ってくる不安な状況を予覚したものが一体となっている。また、過去から吹いてきた風が今ここに到達し起きたという時間的・空間的広がりを表し、生きようとする覚悟と不安がうまれた瞬間をとらえている。

作中の「私」の婚約者・節子のモデルは、堀辰雄と1934年(昭和9年)9月に婚約。1935年(昭和10年)12月に死去した矢野綾子である。

 
 

『風立ちぬ』(漫画)

雑誌モデルグラフィックスに2009年4月号から2010年1月号まで連載されていた宮崎駿の漫画作品。映画『風立ちぬ』の原作。

バックナンバー

※2009年10月号は休載です

 

「の」の法則、ついに崩れる

宮崎駿監督作品の映画タイトルに対して、日本テレビ映画事業部長の奥田誠治が発見した法則である。
宮崎監督作品のタイトルに「の」が入っていることが、ヒットの秘訣であるという。なお、高畑勲監督作品の場合は「ほ」が入るとのことである。

このことから、新作のタイトルも注目されていましたが、原作タイトルのまま『風立ちぬ』となりました。

これを受けてTwitterでは「『の』が入ってない……だと……!?」「うわぁ! どうした駿!?」「まだ間に合うなら『風たちぬのぅ』とかに変えるってのは」などなど、戸惑いの声が続々と投稿されました。おまえら、そんなに「の」が大事か!

しかし、中には「“ぬ”の中に“の”が入ってる」という指摘も。言われてみれば、確かに「ぬ」の中には「の」の形が隠れている! ファンの間では「『の』が入っていないジブリ作品は売れない」というジンクスもあるようですが、「ぬ」はセーフなのかアウトなのか、別の意味でも封切りが待たれる作品となりそうです。

 

 

『風立ちぬ』完成報告会見

※追記 2013.6.25
宮崎駿監督が5年の月日を費やし、これまでにない大人のラブストーリーを描いた、待望の最新作「風立ちぬ」がついに完成いたしました。これを記念して、6月24日、東京・小金井のスタジオジブリにて完成報告会見が行われ、宮崎監督ほか、主人公・堀越二郎の声を演じた庵野秀明さん、主題歌「ひこうき雲」を提供した松任谷由実さんが登壇しました。

―5年ぶりの作品ですが、この5年間はいかがでしたか?

宮崎:
5年ぶりではなくて、5年かかったんです。いろいろやらなくちゃいけなくて忙しかったです。期間としては5年かかりましたけど、その間にシナリオを書いたりとかもしていたものですから、実に忙しかったです。

―庵野さんは声の出演ということで、二郎を演じましたがいかがでしたでしょうか?

庵野:
いや、恥ずかしいです。マイクの前に立つ人の気持ちが、今回よく分かりました。次から気を付けようと思います。

―「ひこうき雲」が主題歌になったのをお聞きになっていかがでしたか?

昨年の12月に行われた公開対談の席で鈴木プロデューサーから直接オファーをいただきまして、本当に嬉しかったです。

(略)

―監督と長いお付き合いの庵野さんにうかがいますが、宮崎監督が涙することは珍しいのですか?

庵野:
初めてでしたね。感極まったんじゃないですか? 抑えられないものが、自分の中にでたのだと思います。そんなに泣く人じゃないので、僕は初めて泣くのを見ました。「あ、宮さん、泣くんだ」、そんな感じ。僕は見れて幸せでした(会場笑)。

宮崎:
庵野に声をやってもらって良かったですよ。プロデューサーと僕とほぼ同時に「庵野がいいんじゃないか」ということになって、それから全然迷わなかったです。ジブリの録音施設は、下にある試写室でやってもらって、コントロールルームは上にあるんですよ。庵野が下にいていろいろ言うものですから「下の監督」と呼んでいたのですが、僕は上にいたのがそのうち並ぶようになりまして「中の監督」になって、最後は庵野が上にいって「上の監督」になってしまいました(会場笑)。いろいろ、おせっかいと助言を受けました(笑)。

―監督が二人いる状況になってしまったということですか?

宮崎:
そんなことはないのですが、いろいろ言われました。たとえば、「エイッ」と言うところを、「いらない」と言っているんですよ、下の監督が。それで、僕も「あ、いらないや」と(笑)。こういうことが何度かありました。

 

あらすじ

※追記 2013.6.25
戦争の足音が近づく中、設計した戦闘機が試験飛行中に墜落し、失意に陥った堀越二郎は、避暑地の軽井沢で里見菜穂子と運命的な再会を果たす。菜穂子は十年前の関東大震災の折に、二郎と同じ汽車に乗り合わせた少女だった。
二人はたちまち恋に落ち、婚約するが、菜穂子は結核を患っていた。「美しい飛行機」を作ろうと、ゼロ戦の設計を進める二郎。一方、自分の命が残り少ないことを悟った菜穂子は療養所を抜け出し、二郎の元に駆けつける。二郎の上司夫妻の仲人で祝言を挙げた二人は、限られた時間を精いっぱい生きようとする・・・。

実在の人物がモデルとなるのは、スタジオジブリの長編作品では初めて。また、宮崎作品はこれまで三、四日の間に起きた出来事の話が多かったが、今作は主人公の約三十年にわたる半生を取り上げた。宮崎アニメの魅力の一つである空のシーンは多いが、派手な戦闘場面などはない。
その代わりに、過去の子供向け作品にはなかった大人の恋愛が描かれている。

 
 

『風立ちぬ』新聞広告

NHK『仕事ハッケン伝』にて、オリエンタルラジオの中田敦彦氏が作成した、『風立ちぬ』の新聞広告

 
 

『風立ちぬ』(映画)

2013年 夏 公開予定
原作・脚本・監督:宮崎駿
音楽:久石譲
主題歌:松任谷由実『ひこうき雲』(予定)
制作:スタジオジブリ
配給:東宝

※主題歌は松任谷由実にオファー中

キャラクター/声優 ※追記 2013.6.6
堀越二郎/庵野秀明
里見菜穂子/滝本美織
本庄/西島秀俊
黒川/西村雅彦
カストルプ/スティーブン・アルパート
里見/風間社夫
二郎の母/竹下景子
堀越加代/志田未来
服部/國村隼
黒川夫人/大竹しのぶ
カプローニ/野村萬斎