スタジオジブリ発行の「熱風」ですが、今月号は豪華対談が掲載されています。
特別収録として、『太田光×高畑勲の対談 「かぐや姫の物語」をめぐって』と、『養老孟司×宮崎駿の対談 道楽は苦しい!』の2本が収録されています。
フリーペーパーなので、無料で配布されています。配布店舗はこちら。



太田光×高畑勲 「かぐや姫の物語」をめぐって

太田:
すばらしかったです。試写が終わった後感想を言おうにも、言葉が出てこないというのが一番近い気持ちです。以前、NHKの番組収録でスタジにお伺いした時に、予告編の絵だけチラッと見せてもらっただけで僕は鳥肌が立ったぐらいなので、「映画はもっとすごいだろう」とは思っていましたが、2時間17分、どこからも目が放せませんでした。
それと常に胸騒ぎがしているような不思議な気持ちになりました。竹やぶの中で竹が光っていて、そこからかぐや姫が出てくるというシーンも、なんだか見てはいけない、触れてはいけないものを見てしまったような。一番重要なものって、さわってはいけない、触れたら壊れてしまう、あるいはこっちが壊れてしまうのではないかといった類いの胸騒ぎ、恐れとでもいうのでしょうか、そういう感覚がある。この作品を見てそういう感覚を覚えました。
それは何だろうと考えると、あの物語の中でもそうですけど、人間って成長するに従って、まっすぐな感情を社会のルールなどで封印していきますよね。たとえば、かぐや姫じゃなくとも誰しも幼い頃、母親からちょっとでもはぐれると、うんと寂しくなって、ひとりぼっちになったような感じでワーッと泣くわけじゃないですか。でも、大人になるにつれてそういう感情を自分でも封印するし、周りからも封印することをどんどん要求されてしまいます。大人はちょっとくらい嫌なことがあっても、泣くことはない。泣く行為は、どこかで閉じ込めておかなきゃいけないものですから。でもそういうものを掘り起こされたような、蓄積して封印してきたものが描かれているような、そんな感じです。人間の最初の基本、言葉をまず話し出す前の感情みたいなものが掘り起こされて、ふたをあけられちゃうというか。だから、単純にきれいだなというのもありましたけど、ちょっと恐ろしい、そこに浸っていくと普通に戻れなくなるような気もして、目が離せなかったです。

高畑:
無垢ということ感じてもらえたのかなあ、イノセンス、壊れやすいもの。そういうものを感覚として感じてもらったのかなという気がしますが。

 

養老孟司×宮崎駿 道楽は苦しい!

宮崎:
大変ですよね、道楽。道楽三昧だと思ったら、始めたら大変でもう。きのうも寝床でノートとりながら、何をノートとってるかといったら、自分の書いた原稿だめだなとか(笑)。でも、養老さんはリタイアしたんじゃないですよね。

養老:
いや、したんですよ。

宮崎:
えっ、いつ?

養老:
いつしたかといったら57歳のときですから、20年前にリタイアしたはずなんだけど。

宮崎:
それは大学の先生をやめたときということですか。

養老:
そうです。その後も一年ほど学校に行ってましたけどね。だってね、日本は定職がないとクレジット・カードひとつつくるのも容易じゃないでしょう。しかも、やめたの50代で普通のちゃんとした人は働いてる時期だから、無職だと相手にしてもらえないことが多くて。それで北里大学に7年ぐらい行ってました。

宮崎:
いや、それ、とてもわかります。アニメーション映画に「前」とか「元」ってないでしょう。もうそれはやめたんだから、なんて書きゃいいんだろうと思って。肩書きないんですよね。それで、けっこう困るんですね。

――宮崎監督は今どんなサイクルで生活をされているんですか?

宮崎:
毎日大体同じ時間にここ(二馬力)に来ます。以前よりは遅くなりましたけど、それでも11時半前には入ってます。帰るのは30分ぐらい早くなってると思うけど、あとは家に帰るだけですね。結局同じ生活してるんです。スタジオに行かなくて済むだけで。何もしていないときもありますし、何かを読んでるときもあるし、一生懸命まきを割ってたり、隣の保育園の子供にちょっかい出しに行くとか。それで、好きな時間に弁当食って、時間になると「これから帰ります」って家に連絡を入れて、帰ってやってることも同じですね。飯を食って風呂入って寝るという。荷物はこっちに運び込んじゃったから、家はほんとに寝るだけのスペースなんです。今までも作品が終わると半年ぐらいはとにかく使いものにならないで茫然としてるということをやってきましたから、だから同じなんです。

――鈴木プロデューサーから、漫画をお描きになられてるという話を聞きました。

宮崎:
ええ、描いてますけど、それが思った以上に大変だということがわかって。もう長い間つき合ってる雑誌ですけど、やめたと言えばそれでやめになるんですよ。何の縛りにもなっていないから、この生産性の悪さはどうしたらいいのか。

養老:
それこそが道楽ですよ。

映画を作りながら考えたこと 「ホルス」から「ゴーシュ」まで
著者:高畑勲
『かぐや姫の物語』が話題の高畑勲監督。長年、宮崎駿とコンビを組んできた彼が赤毛のアンやハイジについても綴った貴重な論考集。宮崎駿×高畑勲×鈴木敏夫の鼎談も収録。

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