阿佐ヶ谷にある、「トトロの住む家」の跡地、「Aさんの庭」という公園を見てきました。
この公園って、数年前までは公園ではなくって、昭和初期に建てられた木造平屋の洋風住宅があった場所なんです。
茂った庭木に埋もれて、ひっそりとしたたたずまいを、宮崎駿監督は、著書の「トトロの住む家」で、「トトロが喜んで住みそうな懐かしい家」として紹介しておりました。
当時としては、非常にモダンでおしゃれな家だったようです。「となりのトトロ」のさつきとメイの家は、この家からインスピレーションを得ていたのだと思います。
しかし、その家は、2009年2月14日に放火によって焼失。その後、火災を知った宮崎駿監督が、杉並区へ公園のデザイン提案を申し出たとこから、今年の7月に公園としてオープンされました。

トトロの住む家(Aさんの庭)



庭の草木は、ほぼ原型を留めたかたちで残されているので、新興住宅地に作られるような、わざとらしい公園とはわけが違います。
これまでの何十年という蓄積が、うまく残された公園になっています。
この「Aさんの公園」という園名の由来は、”誰でもある”という意味のAさんだそうです。つまり、公園に来た人みんなの庭ということ。ネーミングはあまりキャッチーじゃないけど、そこがなんとも宮崎駿さんらしいセンスだと思います。

トトロの住む家(Aさんの庭)

この場所に、まだ家があったころは来たことがなかったのだけれど、この公園を見れば、どれだけ素敵な家と庭があったことか想像できることでしょう。

「ジブリの風景 宮崎作品が描いた日本」でも、焼失前の「トトロの住む家」が紹介されています。

人と草木と家が、同じ時を生きて造り上げた
住む人の心根が偲ばれる……、そんな家を訪ねた。
古い家が、次々と姿を消す東京にいると、自分たちの少年時代が歴史から消えてしまうような心細さを感じる。せめて記録にとどめられないかと始めた企画なのだが、こう様式が崩れてしまうと、良い家の定義が決められない。
懐かしいと感じる家々が、震災後の薄手なハイカラ趣味だったり、造作の良い家と思われたものが、今日にも続く成り金趣味にすなかったりと、最近2×4(ツーバイフォー)の白い箱家に至るまで、東京の町家は流行りすたりに漂ってきただけだと分かってしまったりする。

(中略)

Kさん宅は、阿佐ヶ谷駅から北に抜ける古い路地沿いにある。昭和初期にたてられた数軒の住宅が、生け垣をつらねて今も残る一角のその中ほどに、庭木に埋もれるように、ひっそりとしたたたずまいを見せている。
たからもの……、そう表現するのが一番ふさわしい。
五年程前、たまたまその前を通りかかって釘づけになってしまった。生け垣の上から庭木が梢をのばして路地に濃い影を落としているその風景は、私たちの子供時代の風景そのものだった。近ごろではすっかり見かけなくなった竹垣のつるバラ越しに中を窺うと、本当に輝くばかりのみどりの庭である。
木が埋めつくされている。しかし、少しも陰鬱でない。庭の中央では腰のあたりほどの庭木の群落が、外へいくほど丈を高くしていき、隣地の庭木と混然と交わりあって小さな宇宙としかいいようのない空間をつくっている。

宮崎駿監督の著書、「トトロの住む家」より。