鈴木敏夫 渡辺真理『レッドタートル ある島の物語』の公開に先駆けて、鈴木敏夫プロデューサーによる講演会付きの試写会が、2016年に行われました。本作は、高畑勲監督もアーティスティック・プロデューサーとして参加しており、初の海外共同制作でつくりあげたスタジオジブリの最新作として公開され、第69回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門で特別賞を受賞しました。



講演会では、本作のこだわりのシーンや、これまでのジブリ作品づくりの舞台裏を鈴木さんが語りました。イベントはLINE LIVEにより生配信もされました。聞き手は、渡辺真理さんです。

言葉では伝えきれない故に映画がある

鈴木:
映画をいくら言葉で語っても、映画を語ったことにはならない、と思ってるんですよ。
その昔、アニメージュっていう雑誌をやっていて、『天空の城ラピュタ』のときなんですけど、実は映画に合わせて小説を連載でやったんですよね。そしたら、公開日を前に、最終回なんですよ。そうすると、映画の公開前に、ラストシーンを明らかにして良いかどうか、やっぱり悩んだんですよね。悩んだけれど、いくら書いたって、どうせわかりゃしないから。
ぼく、言葉では伝えきれないものがある故に映画があると思ってるんですよ。だから、今日たしかに皆さんご覧になっていないけれど、映画をご覧になりながら、「さっき鈴木が言っていたあれは、こうなのか」とか、それも娯楽というか、エンターテインメントのひとつということで言うと、お互い(渡辺、鈴木は)観ているわけですから。それを我慢しながら喋るって、すごい難しいから。

渡辺:
映画をメインとして、これ(講演)が前菜のようなかたちになれば良いんですよね。

鈴木:
はい、わかりました。いま、たぶん怒られてるんだと思います(笑)。

渡辺:
そんなことないです。ちなみに、ラピュタは結局……。

鈴木:
掲載したんですよ。

渡辺:
公開前に、じゃあラストシーンは……。

鈴木:
出しました。だけど、誰ひとりからも文句なかったですよね。要するに、なんでラストシーンを明らかにするのか、「ぼくたちは、これから映画を観るんだぞ」っていう意見は皆無だったんですよ。

甲羅とイカダを流すシーンの意味

渡辺:
なるほど。ということは、ちょっとそれを支えに。『レッドタートル ある島の物語』に関して、どんなことをお話になりたいですか?

鈴木:
宣伝その他で、もうすでにおわかりだと思うんですけど、男女が出てくるわけですよね。その女性が、どこかで拾ったんですかね、亀の甲羅を手にして、それを流すんですよ。これ、けっこう大事なシーンですよね。

渡辺:
沖に流していくんですよね、スーッとね。

鈴木:
あれ、なんで流すんですか?

渡辺:
それは、この映画って……今日800人以上の方がいらっしゃっていて、おそらく800通りの見方ができる映画だと思うんです。それぞれのっていうのかな。

鈴木:
80個くらいじゃないかな(笑)。

渡辺:
わかんないけど。

鈴木:
ちょっと頭だけ説明しますね。無人島にたどり着くんですよ。予告編でもやってますから、皆さんご存知だと思うんですけど。

渡辺:
すごく荒れた海のところから。

鈴木:
島にたどり着いたでしょう。ところが、やっぱり、文明の世界に戻りたい。っていうんで、自分でイカダを作って、島から脱出しようとするんです。ところが、一回、二回、三回、何回やってもうまくいかない。なんでだろうと思ってたら、それを邪魔してたやつがいるんですよ。「なんで?」って、島に縛りつけようとするのは。それと、レッドタートル、ある女性が、ちょっと関係あるんですよ。これ、誰でもわかっちゃいますね(笑)。

渡辺:
でも、おっしゃってはいないですね(笑)。

鈴木:
それで、女性と男性が二人きりになったとき、女性がなんでか知らないけど、亀の甲羅を沖に向かって流す。そうすると、男も慌てて作りかけのイカダを流すんですよね。

渡辺:
そこ、連動してますね。

鈴木:
やっぱり、女性って凄いですよね。

渡辺:
まあ、腹決めないと、ってときはありますもんね。

鈴木:
怖いですねぇ。

渡辺;
いやいや……。

鈴木:
でも、そうでしょう?

渡辺:
逆に言うと、男の人のほうが、決めるの遅いなぁ、ってことはありますよね。

鈴木:
女性として男を見ていて?

渡辺:
そうですそうです。

鈴木:
男はだって、優柔不断だもん。

渡辺:
やっぱ、そういうもんなんですかね。

鈴木:
だから、何の脈略もなく彼女がいきなり、彼を見た途端に甲羅を流して、「わたしはこの島にいるのよ、あなたはどうするの?」って話でしょう。

渡辺:
そうですそうです。

鈴木:
で、男もジタバタと慌てて、作りかけのイカダを流す。あれ、良いシーンですよね。

渡辺:
そうですね。それ、逆にはならないもんなんですよね? 普通の現実社会でも。

鈴木:
ぼくは、作るのに参加してたでしょう。実は、そのシーンって、いろいろ議論のあったシーンなんですよ。

渡辺:
どんなふうな?

鈴木:
簡単に言うと、女性が甲羅を流す、出来あがった映画は、男が後でイカダを流すってなってるんだけど。マイケルは、「同時が良いんじゃないかな?」とかね、いろいろ言い出したんですよ。そうすると、同時だと、いったいどういう意味なんだろう、とかね。

渡辺:
確かに、ちょっと変わってきますよね。

鈴木:
変わってくるんですよ。

渡辺:
それは、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督、高畑監督、鈴木プロデューサーって、それぞれ意見は……。

鈴木:
いろいろあったんですよ。最初は、ほとんど間を置かずに、甲羅を流すとイカダをすぐ流す。でも、そこにもっと間があったほうが良いんじゃないかとか。それで、ぼくら日本サイドでも、いろいろ検討したんですよ。それで、挙句の果ては、ある女性がこう言い出したんですよ。「イカダに乗って、二人で文明の国を目指せばいいのに」とか、いろいろあったんです(笑)。

渡辺:
まったく違うストーリーになりますね、それはそれで。

鈴木:
そういう考えの人もいるんですよ。だから、あのシーンは、ほんと面白かったんですよね。

付け加えられたラストシーン

渡辺:
話し合いというか議論や、意見交換は、どのシーンでもいろいろなさってたんですか?

鈴木:
やっぱりやりましたね。ここはちょっと抽象的に言いますけど、ラストのシーン。これ、実はぼくらが知らない間に作られちゃったんですよ。

渡辺:
そういうことがあるんですか?

鈴木:
あったんですよ。シナリオにないし、ストーリーボードにもない。それで、ぼくらが完成した映画を観てたじゃないですか。そしたら、「あっ、付け加えやがったな」っていうね。

渡辺:
そういう感じだったんですか?

鈴木:
それもありました。

渡辺:
それは、鈴木さんがご覧になったときに、「付け加えやがった」けれども、どう思われたんですか?

鈴木:
そんな気持ちは、ポッと飛んで、むしろ新鮮に観れた。と同時に、いろんなこと考えましたけどね。

渡辺:
例えば?

鈴木:
この映画って、一貫してるのが、やっぱり男と女の話ですよね。やっぱり、いろんなものを削ぎ落として、男女のラブは成立するのかって、いいですよね。ぼく、ちょっと間に合わないんですけど、ちょっと羨ましいっていうのか。あの、マイケルに頭にきましたね。

渡辺:
どこらへんに頭にくるんですか?

鈴木:
要するに、今から観ていただく映画って、ある種、マイケルの自伝なんですよね。

渡辺:
あ、そういうことなんですか?

鈴木:
そうなんですよ。それで、マイケルがキャンペーンで日本にやって来て。先週あたりから、いろんなところにインタビュー記事が出てるんですよ。それで、その中で本人が「(作品が)長かっただけに、自分のことも出さざるを得なかった。それが恥ずかしい」なんて言ってたんですけど。
そのキャンペーンが終わったあと、ぼく、実はマイケルの家族と共に、ご苦労さまを兼ねて、裏磐梯に行ったんですよ。これは、高畑さん推薦でね。
そしたら、家族がみんな喜んじゃって。「日本に、こんな美しいところがあるのか」って。それで、奥さまが「ここはスイスですね」って。そのぐらい綺麗でしたね。
それは良いんだけど、皆さん、マイケルの顔ってわかりますかね? マイケル・ディダク・ド・ビット?

渡辺:
マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督。LINE LIVEや新聞でも、いろいろ出てらっしゃいますし。

鈴木:
そうですね。平たく言うとね、いい男なんですよね。

渡辺:
端整なお顔ですよね、ほんとうに。

鈴木:
好みかどうかわかんないですけど。

渡辺:
いや、好みは、ちょっと置いといたとしても。私のことはどうでもいいですよ。素敵な方ですよね。

鈴木:
で、奥さまが、麗しい方なんですよ。

渡辺:
また素敵な奥さまなんですね。

鈴木:
そうなんですよ。挙句の果てに、娘さんと息子さんがいたんだけれど、映画と違ってほんとうは四人家族なんですけど。ちょっと、ビックリするぐらい美男美女。なんで、こんな家族が生まれちゃったんだろうって。

渡辺:
麗しいご家族なんですね。

鈴木:
全員ね、男はいい男だし、女はいい女。で、見てたら、たった一泊二日だったんだけれど、改めて「このレッドタートルって、自分の家族をモデルに描いた作品なんだな」って思い知らされて。
マイケルが日本にキャンペーンにやってきて、宮崎駿のところに挨拶に来てくれたんですよ。そこで、宮さんもいろいろ言うんですけど、通訳が入るじゃないですか。ぼくは隣にいたんですけど、マイケルに自分の言いたいことを伝えながら、ぼくに「いい顔してるね」って。それで、ぼくは比べるじゃないですか、二人の顔を。それは、ずいぶん違いますよね(笑)。

渡辺:
え、ちょっと待って(笑)。

鈴木:
マイケル、かっこいいんですよ。

渡辺:
宮崎監督も、かっこいいと思いますよ。

鈴木:
見方によってはね。で、またいろなこと喋ってる間に、「奥さんも素晴らしいよね」って。それで、非常に珍しい言葉を使ったんですよね。「つつましやかな方だよね」って。それを、本人に映画の感想を伝えながら、合間にぼくに伝えてきたんですよ。なんですかね? たぶん、圧倒されたんですよ。その二人の佇まいに。

渡辺:
そんなに素敵だったんですね。

鈴木:
ちょっと、嫌んなるぐらいね……。

渡辺:
いいじゃないですか、素敵で(笑)。そこが、頭にきたとこですね?

鈴木:
で、ふり返ると、この映画の中に出てくる、あの女性、明らかに彼女がモデル。そして、主人公の男はマイケル。って考えると、全部わかりやすくて。それを特殊なものじゃなくて、普遍的なものにしてるっていうのが、彼の力なんでしょうけどね。

渡辺:
なるほど。

鈴木:
だから、さっきの甲羅にこだわったのは、どっちがプロポーズをしたんだろうって。

渡辺:
聞いてみたんですか、それ?

鈴木:
いや、聞いてないんだけれど、明らかに彼女ですよね。

渡辺:
さっきの、甲羅を流すシーンっていうのはそうですね。

鈴木:
それで、慌ててイカダを流すのはマイケルだから、それによって「イエス」でしょう。それで、二人が一緒になるわけでしょう。っていうことで観ていくと、この映画いいなぁ、と思ってね。

渡辺:
鈴木家はどうなんですか?

鈴木:
うちはどうなのかなぁ。まぁ、それは置いときましょう。

渡辺:
そうですか、置いときますか(笑)。

スタジオジブリは宮崎駿の初恋の人が住む町

渡辺:
ちょうど、この前、鈴木さんに別のインタビューでお邪魔したときに、宮崎監督の話になって、ジブリのスタジオを設計なさったのが宮崎監督で、そのスタジオの場所をどこに建てようかって、お二人でその地域を歩いてらしたときに、宮崎監督がパタッと立ち止まって……、っていうことがありましたよね。

鈴木:
ありました。ジブリって、東京の郊外、小金井ってとこにあるんですけど。最初にジブリは、貸しビルで吉祥寺だったんですよ。そのあと、宮崎がこだわったのが、小金井。ぼくは、そちらの地域に疎いんで、なんで小金井なのかなと思って。
それで、不動産屋の人も連れないで、「二人でいろんな物件見ない?」って言って、それでぐるぐる周るんですよね。しかも、かなり長い時間。二人で延々。で、夕方になってきたころ、ある一軒の家を見つけて、そこで立ち止まる。「宮さん、どうしたんですか?」って言ったら、そのときに彼は、たぶん50いくつ。「おれの、初恋の人の家」って。

渡辺:
宮崎駿監督の初恋の方のお家の前で、鈴木さんと二人佇む感じに。

鈴木:
で、振られたっていうんですよ。

渡辺:
あ、振られちゃったんですね。あ、ちょっと待ってください、これLINE LIVEで言ってて良い話ですか?

鈴木:
まあ、良いんじゃないですか、この際。で、振られて、武蔵境って駅があるんですけど、そこまでトボトボと一人で歩いた。で、その道を二人で歩こうよって。

渡辺:
50くらいの宮崎監督と、鈴木さんで、デジャヴ的に二人で歩くということ?

鈴木:
バカじゃないかと思ったんですけどね。本人は、浸りきってるわけですよ。あの日に帰っちゃったっていうのか。あれは印象的でしたね。確かに、あらかじめ彼が調べてきていて、すぐ近くに空き地があったんですよね。そこをジブリにしようかって言って。でも、いくらなんでもねぇ(笑)。

渡辺:
近くに、初恋の方のお家があるなぁ、っていうところに、今ジブリのスタジオがあるというね……。

鈴木:
なんかあるんでしょうねぇ。あの人って、自分の子供のころの記憶、それから青春に差しかかったころのいろんな記憶、まざまざと自分で抱えている人ですよね。

渡辺:
その話を、ふと今思い出したのがですね、マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット監督と奥さまの話しに対する鈴木さんの「いいなぁ、素敵だなぁ」っていう目線なんかも含めると、やっぱり宮崎監督も、鈴木さんも、凄くロマンチストな部分があるなって思いました。

鈴木:
たぶん、二人は実現できなかったからじゃないかなって(笑)。

渡辺:
いやいや(笑)。

『レッドタートル ある島の物語』は興行を考えずに作った

鈴木:
あのね、こういうことは、言っちゃって構わないと思うのだけど、この『レッドタートル』って映画は、自然に翻弄される中で……人間って自然に翻弄されるものじゃないですか。そういう中で、二人の男女が出会って、小さいけれど、確かな愛を育む。それで、一生を過ごして云々っていう。そういう映画だと思うんですよね。それを、自分たちをモデルに、見事にやってのけるわけでしょう。ちょっと羨ましかったですよね。
ぼくはプロデューサーなんだけれど、それを横目で見ながら、「いいなぁ」と思ってね。それで、挙句の果てに、奥さまにお目に掛かってみると、そういう方だしね。二人を見てて、そういう感じが伝わってくるんですよね。ぼく、ほんとうに今度の映画って、今までに体験したことないやつなんですよ、いろんな意味で。

渡辺:
どういう感じに体験したことない?

鈴木:
今回のことをまず言うと、マイケルの作った『Father and Daughter』。これは、2000年かな? これアカデミーの短編賞とった作品なんですけど。

渡辺:
『岸辺のふたり』って邦題ですね。

鈴木:
それで、ひとりの女性の一生を描く。しかも、お父さんと離れ離れになって、その後、彼女は子供だったはずが、少女から、一般の女性になって、中年になって、お婆さんになるまでを、たった8分間のなかに描く。と同時に、二人が別れた場所。皆さんも、小学校とか中学校で習ったと思うんですけど、オランダって国は、干拓の街だったんで。それによって、水が無くなっていくっていうのを同時に描いて。その二本を並行に描くんですけどね、実に素晴らしい作品。それが、ぼくは大好きで、大袈裟じゃなく100回ぐらい観てるんですよ。観てるうちに、何度もマイケルに会って、ふと出来心ですよね。「長編を作ってみない?」って。ほんとうに出来心ですよね。そしたら、彼が首を縦に振ってくれた。ただ、条件があったのは、ジブリが手伝ってくれるなら。だから、ぼくとしてはほんとうに、彼が長編を作ったらどうなるか、そのときに何も考えてないんですよ。普段だったら、宮崎駿にしろ、高畑勲にしろ、やっぱり考えるんですよ。

渡辺:
例えば?

鈴木:
ぼく、会社の偉い人なんで。

渡辺:
はい、知ってます。みんな知ってます。

鈴木:
そうすると、会社の維持運営とかね。そうすると、宮さんにも「多少、サービスでやってよ」とかね。例えば、わかりやすいやつで言うと、『魔女の宅急便』ってあるじゃないですか。ほんとうは、宮崎駿は、お婆ちゃんにケーキを届けるところで、エンドマークだったんですよ。

渡辺:
そこで終わりってこと?

鈴木:
終わり。で、ぼくね、不安になったんですよ。これじゃ、会社の運営ができない。

渡辺:
はぁ、なるほど(笑)。

鈴木:
それで大団円? 彼女が飛べなくなって、それで飛行船が飛んできて大活躍って、こうすればお客さんが来てくれるって、さもしい心?

渡辺:
さもしくはないですけどね、運営っていうかね。

鈴木:
だから、そのときは、ぼくはスタッフから総スカンですよ。「なんで、そんなシーンを宮さんにやらせようとするんだ」って言って。で、ぼく、開き直ってね、「他の人がやるならともかく、宮さんがやるなら上手に作るからいいんだ」って言ってね。
そういうことで言うと『おもひでぽろぽろ』で、27歳になった娘が、子供のころを思い出すなんていうのも、途中で「男を入れましょうよ」って。要するに、タエ子が好きになる男。なんでかって言ったら、要するに観客層を広げようとかね。そういう、不純な動機ですよね。

渡辺:
不純じゃないですけどね。

鈴木:
だけど、今回は何にもないんですよ。

渡辺:
それは、最初から、無くしようってことですか?

鈴木:
いや、なんて言うんですか、気がついたら犯罪犯してるみたいなもんですよね。

渡辺:
ちょっと待ってくださいね、ちょっと話が飛んだから。どういうことですかそれは?

鈴木:
だから、手を出しちゃったんですよ。彼に頼むときにも、何の根拠もないし、誰にも相談しない、とにかく「長編を作ってみないか?」って。それが、何年後に出来て、どのぐらいの売り上げと利益を生むとか、何も考えなかったんですよ。
だから、カンヌ国際映画祭で、ある賞を頂くんですけど、そしたらいきなり「ヨーロッパのスタッフを使って、ジブリが映画を作る。どうしてそんな大胆なことを考えたんですか?」って言われると、なんかギャップがあるんですよね。

渡辺:
カンヌで「ある視点」という賞をお取りになって、沢山インタビューをお受けになったと思うんですけど、そういう質問が多かったんですね?

鈴木:
やっぱり多かったですね。日本人がヨーロッパのスタッフで映画を作るって、確かに珍しいみたいなんですよね。でも、ぼくなんか、そんな大それた気持ちないですよ。だって、ぼくはマイケルと何回も会ってるし、仲が良かったわけでしょう。だから、気楽に言ってるわけですよ、「作らない?」って。しかも、この人はジブリの人じゃないから、あなたに余計な負担は負わせない、そういう気持ちなんですよ。で、たぶん、高畑・宮崎よりは、安いお金でやってくれるかな、とかね(笑)。
だから、ほんとうに趣味なんですよ。

渡辺:
なるほど。

鈴木:
東宝さんに配給をお願いするんですけど、そしたら東宝さんが「これだけの映画館を用意する」とか、いろいろ言われちゃって。今更ですけど、言われたとき焦ったんですよね。

渡辺:
なんでですか?

鈴木:
だって、そんなつもりないもん。

渡辺:
どんなつもりだったんですか?(笑)

鈴木:
もっと小っちゃく封切ってよ、って感じですよね。そのために、こういうこと(講演)もやらなきゃいけないんですよ。

「ジブリの大博覧会」は記憶の断片のように展示した

渡辺:
皆さんも、「ジブリの大博覧会」ご覧になったと思うんですよね。9月11日までなんですけど。これ見てみると、ほんとうに細かく展示がしてあって、私たちがジブリを映画館で観たり、テレビ放映を観たりすると、テレビも毎回視聴率が20%とかになるから、「やっぱり、ジブリは面白いよな。ジブリのものは、大成功するよな」っていう、結果から入ってるんですよね。だから、経営のこととかおっしゃったり、次のチャレンジとか心配とか、そんなに無いんじゃないかなと思ったりして、「ジブリの大博覧会」に行くと、こんなに大変で、こんなにチャレンジで、こんなふうに乗り切ってらしたんだなと。鈴木さんと、糸井さんが、こんなに密なFAXのやりとりを、息詰まるFAXのやりとりをしてらっしゃったんだなと。そして、こんなふうな作品が出来たんだなと、ビックリしたりしたんですけど。それとはまた別に、『レッドタートル』って、純粋に「マイケル監督の長編が観たい!」ってところでスタートしたってことだから、ある意味、珍しいスタートを切ったってことですよね?

鈴木:
そうですねぇ。でも、大博覧会のことを言われちゃったんで、いろいろあるんですけどね。ぼく、そんなには苦労してないですよね。

渡辺:
ほんとに?

鈴木:
ほんとに。例えば、糸井さんとのやりとり。楽しかったんですよ。いや、ほんとうに。だって、ぼくらが思いつかない言葉を考えてくれるわけでしょう。そしたら、やっぱり嬉しいですよね。
なんだっけな、『千と千尋』だったと思うんですけど、いろいろ彼が作ってくれた中に、「迷子になろうよ、一緒に」って。上手いですよねぇ。

渡辺:
素敵ですね。

鈴木:
諸般の事情があって、実際の映画には使わなかったんですけど、実はジブリ美術館のコピーに流用させていただいたんですよね。だって、これ勿体ないと思ったんですよ、そのまま眠らせちゃうの。
それで、美術館が出来たときかな、糸井さんに「お祝いで、これタダでください」って言ってね(笑)。

渡辺:
そう交渉なさったんですか?(笑)

鈴木:
そうそうそう(笑)。

渡辺:
「はい」っておっしゃいました?(笑)。

鈴木:
言ってくれました(笑)。

渡辺:
やりとり自体は、とても濃くて、とても楽しいと思うんですけど……。

鈴木:
スタートは、いろんな事情もあるんですよ。たいがい、何かの事情があって。そこをまともにやってたら、やってられないから、やると決めたら遊びの世界。だから、ご覧になっていただくとわかるんですけど、……これ自慢話ですよ? そう思って聞いていただきたいんですけど、普通ジブリっていうと、『ナウシカ』から、『ラピュタ』に、『トトロ』『火垂る』って順番にやるはずなんですよ。で、ぼくがスタッフにいちばん最初に言ったこと、「順番にやるな」って。

渡辺:
どうしてですか?

鈴木:
それぞれにまつわるポスターや、新聞広告だのグッズだの、いろんなものがあるでしょう。それを、「グチャグチャにやれ」って言ったんですよ。なんでかって言ったら、「自分がお客さんになってみな」って。「いろんな記憶の断片って、頭の中で整理して、ちゃんと仕舞ってる?」って。実は、あそこにあったり、ここにあったり、あそこにあったりするでしょう。それをそのまま、お客さんの頭の中の世界を、そのまま展示にできたら面白いよね、ってなるんですよ。

渡辺:
なるほど。

鈴木:
っていうのを考え始めると、いろいろやりたくなってくるんですよ。

渡辺:
確かに、理路整然と「理」の部分で見ていくんじゃなくて、それこそ迷い込んだみたいに、「あ~、そうだった!」とか、「これも、これも!」というふうになる。

鈴木:
例えば、ジブリ作品は20何本あるんですけど、やっぱり自分がいちばん好きだったときの作品っていうと、そんなに多くあるわけじゃないんですよ。そうすると、それにまつわる宣材物を見る楽しみでしょう。それが、まとまって置いてあったら、そこで見て終わりでしょう。それだったらつまらないじゃないですか。ところが、「あれがない!」と思ってたら、ちょっと行ってみたら、そこにあった。「じゃあ、あれはどこにあるんだ」って言って、また探す。だから、人間の頭の中を展示にしてみたかったんですよね。っていうことを考えるのが好きなんですよ。

プロデューサーはやりたくなかった。

渡辺:
主催者側が押し付けるんじゃなくて、見ている方がどんなふうに面白がれるかだとか、探検できるかっていう……。

鈴木:
そうそう。自分がそうだからかもしれないですけどね。

渡辺:
そういうのを鈴木さんが絶対にあきらめないでやるからこそ、ほんとうに作業がギリギリになったりしますよね?

鈴木:
ぼくはそんな……、ちゃんと前もって(笑)。
ま、ちょっとギリギリになることもあるんですけどね。でも頑張ったんですよ、あれは。やってみた結果は楽しかったですね。直前まで、ぼくはみんなを大混乱させるんですよ。というのは、本当は六本木の大博覧会って、入ったらいきなり、飛行機が飛んでいる部屋になってたんですよ。そして真ん中にいろんな宣材物があって、最後は『レッドタートル』だったんです。そういうときに、なんだか勘が働くんですよ。これを逆にして最初は『レッドタートル』にして、最後は飛行機にしたらどうだろうって考えるんです。頭の中のどこかで、誰かが教えてくれるんですよ。

渡辺:
フッて、ひらめくんですか?

鈴木:
そう。やってみたら、スタッフが「あれは正解でした」って言うから。ぼく、実はそういうとき、後ろめたいんですよ。だって、ちょっと思いついて言ってみただけでしょう。あんまり真面目に言わないでよ(笑)。

渡辺:
思いつきは、ずっと前からですか? 例えばアニメージュなさってたときとか、徳間書店にいた記者のころとか。ひらめきは研ぎ澄まされていくものなんですか?

鈴木:
いや、そんなたいしたことだとは思っていないですけれどね。子どもがね、ゲームをやって勝つだの、負けるだのあるじゃないですか。そういうときの創意工夫とちょっと似てんじゃないかと思いますけどね。ぼく、子どものころにメンコとかわりと好きだったんですよね。どうやったら勝てるかとか。何でもいいから勝てばいいんじゃなくて、クスッと笑っちゃうようなこととか、子どもの頃から考えていましたね。

渡辺;
メンコから始まってるんですか。

鈴木:
そうですね。メンコは、わりと強かったです。

渡辺:
単純に、ただ勝てば良いんじゃないくて、こういうふうに勝ってみようって。

鈴木:
だって、プロセスがおもしろいじゃないですか。例えば、映画をやっていくっていうとき、宮崎駿で映画を作ろうって思って、自分の役割はなにかと考えたらプロデューサーしか残ってないですよね。絵描きはいっぱいいるし。やる必要がないんですよ。

渡辺:
だから、プロデューサーを目指してなったわけじゃなくて?

鈴木:
まったくないですね。なんとなく自分の中で予感があったんですよ。プロデューサーって、雑用係だろうと。それを自分がやらなきゃいけないとしたら、これは大変だなと思ってたんです。だから、どっかにプロデューサーがいないかって探したこともあるんです。わりと考えるほうなんですよ。できたら、ほんとうは逃げたくて、どこかにいないか探すほうなんです。

渡辺:
実際に探されたんですか?

鈴木:
探しました。何人も説得したんですけれどね、誰もやらないからしょうがなく自分でやったんです。そして、ジブリという会社をちゃんとつくって、運営しなきゃいけないって瞬間があったんですけど、そのときも同じなんですよ。一番最初に、何をやったかというと、社長探しなんですよ。

渡辺:
社長も探したんですか?

鈴木:
どっかにいないかなと思ってね、声かけて。でも、なかなかいなかったんですよね。なんか、みんな嫌がったんですよね。ぼくは自分でやりたくないんですよ。プロデューサーって言われたときも、なんでぼくがやらなきゃいけないのかなって……。

渡辺:
実際にジブリのプロデューサーでスポークスマンとして鈴木さん出られていますけど、べつに自分から出たくて出ているわけじゃなくて?

鈴木:
ぼくは、メディアで自分が取材をする側だったでしょう。する側だったから、取材される側のしんどさをわかっていたんです。実を言うと、『もののけ姫』の途中まで全部、宮崎駿しか喋っていないんですよ。そしたら、ある日、宮崎が怒りだしちゃって。「映画をつくって、なんでおれが取材まで受けなきゃいけないんだ」って。ほんとうに怒ってましたね、その日は。「そういうことやるのは、本来、プロデューサーの仕事でしょ!」って、本気で怒ったんです。普段、ぼくのこと、プロデューサーなんて言ったこともないくせに(笑)。

渡辺:
普段は友人の鈴木さんですと。

鈴木:
そう。そこからですよね。いろいろ、ぼくがやらざるを得ないっていうのは。

渡辺:
自分が出ようと。

鈴木:
そうです。もうあきらめました。

渡辺:
高畑さんはそんなに怒られないかもしれないけど、宮崎さんが怒ったのは、そのときぐらいですか?

鈴木:
うーん、言いだすとキリがないくらいありますよね。言うと誤解を与えるからなぁ。
かなり、いろんなことで怒るんですよ、あの人は。それで、怒るのが好きだからなぁ。好きっていうと、語弊もあるんですけどね(笑)。

渡辺:
とってもピュアだから、怒りに転じることってあると思うんですけど、そういうときに鈴木さんは、どういう風に乗りきるんですか?

鈴木:
高畑勲、宮崎駿の先輩にあたる、大塚康生っていう人がいるんです。で、ぼくは『風の谷のナウシカ』をつくり始める前に、大塚さんのところに相談に行ったんですよ。そのときまで、宮崎と付き合ったのは、取材及び『風の谷のナウシカ』っていうマンガの連載でだけだったんですよね。でも、今度は作品をつくらなければいけない。マンガは一人で描けばいいけれど、映画はそういうわけにはいかない。彼と置かれる状況がまったく変わるじゃないですか。それで、ぼくは、大塚さんと親しかったんで、「大塚さん、教えてもらえませんか。どうやって宮さんと付き合うんですかね」って、聞いたんです。そしたら大塚さんから「鈴木さん、それは簡単だよ。宮さんがいろんなこと言うけれど、大人が言ったと思わない方がいいよ。子どもが騒いでいるって思ったらいいんだよ。子どもがいろんなことを言うことに対しては、大人は我慢できるでしょ?」って。なるほどって思ったんですよ。そこからですよ、宮崎が何を言おうと、「また言っている」って思うようにしています。大塚さんに感謝しています。
高畑さんについてはインテリだし、すごそうに見えるんですよ。ところが、大塚さんに言わせると、「同じだから」って(笑)。
ちなみに、ついに本人(宮崎駿)が大塚さんの言っていたことを認めた日があったんですよ。ぼくの面倒をみてくれる白木さんっていう女性がいるんですけど。高畑は、ぼくより13歳上で、宮崎も7歳上。二人とも年上で、ぼくが一番下。そしたら、その白木さんがあるとき、宮崎駿に向かって「宮崎さん、鈴木さんは大変ですよ。3人は例えてみれば兄弟です。一番上のお兄さん(高畑勲)、真ん中のお兄さん(宮崎駿)、末っ子の鈴木さんがね、長男と次男がいろんなこと言うから本当に大変ですよ」って言ったら、宮崎駿が白木さんに向かって「白木さん、それは違うんだよ。鈴木さんは末の弟じゃない、ぼくらのお父さんなんだ」と言ったそうなんです(笑)。さっきのことと符合するでしょ?

渡辺:
父として、温かく愛で包んで……。

鈴木:
そういういいご意見がきたんで、基本的には本当に腹は立たないです。また子どもが何か言ってるなと思って。

宮崎駿はサービス精神過剰

渡辺:
宮崎さんももちろん、『レッドタートル』はご覧になったんですよね?

鈴木:
そうですよ。宮崎駿っていうのはせっかちで、まず第一にマイケルを目の前にしたら「10年、よくがんばりました」って言っていました。「それは簡単にできることではない。もしぼくがやっていたら、途中でくじける」って。確かに、宮さんは嫌がるんですよ。長期に渡って仕事をすることに対して抵抗があるんですよ。

渡辺:
持久戦じゃないんですね。

鈴木:
そうなんです。一気にやっちゃいたいんですよ。それと違うのが高畑さんなんですけどね。
それと、二つ目がね、「ぼくらは商業アニメーションをつくっている。そうするとつい、お客さんの顔が目に浮かぶ。それで自分の弱さが出ちゃう。でも、あなたは、媚びているところがなに一つない。それも素晴らしい」って言っていました。やっぱり、自分と比較したんでしょうね。

渡辺:
でも、お客さんを喜ばせたいって思うところが、私たちも「好き」ってなるんですよね。

鈴木さん:
ともすると、やりすぎるんですよね。『となりのトトロ』を作るときですよ。最初の案をみたら、驚きですよ。一番最初からトトロが出てくるんです(笑)。

渡辺:
サツキちゃん、メイちゃんがいて、トトロはどうやって出てくるんですか?

鈴木:
いきなりあの庭にドーンと出てきて、大活躍なんです。それで、あっという間にトトロの物語を作って、「鈴木さん、どうかな」って言うんです(笑)。ぼくは、それを見て、ダメだと思いました。
ともすると、サービス精神が過剰になる人なんですよ。トトロを出さなきゃって。極端な人だから。それで、トトロの登場するタイミングについていろいろと話し合ったんですけど、苦し紛れだといろいろなことを思いつくので、「ETが出てくるのは中盤でしょ」って言ったんです(笑)。そしたら、宮崎は『E.T.』を観たことがあったみたいで「あっ、そっか、真ん中だ。でもその間、どうする」って言ったんですよ。ETだと、最初はチラ見せ? 手の端が見えたり、爪が見えたり、足下が見えたり。あれをこちょこちょやって、真ん中で登場することを伝えると、「わかった!」って大きい声で言って、でかい紙に1本線を引くんです。「真ん中、トトロ登場」って、書いちゃうんですよ(笑)。彼の名誉のために言いますが、これは、なかなかできないことだと思うんです。今の一連の話、スタッフ全員が聞いているんです。隠さないんです。ぼくとのやりとりをみんなが聞いていても、まったく意に介していない。普通、こんなことを言ったら恥ずかしいとか考えるでしょう。創作に関しては、全部オープンです。それは彼が守っていることなんです。

渡辺:
スタッフも、ハラハラなさいますよね。

鈴木:
スタッフも、普段より下を向いたりして、聞いているんです。それも含めて、あの人、ピュアだと思う。話が移っちゃってるけど、『ハウルの動く城』のときも、スタッフ全員集めて作品説明会をしたんです。そしたら、宮さんが「今回の作品のテーマは、今までやったことがないけれど、おれの初めてのラブストーリー」と言ったんです。そうしたら、「いつも入っているよ」ってスタッフから笑いが入ったんです。そしたら「うるさい!」って、その後に「この本格的なラブストーリーをどうやってつくるか?」とか言ったら、みんな注目するじゃないですか。でも、間が空いたんですよ。で、「鈴木さん、どうやってつくるんだっけ?」って言ったんです(笑)。ほんとうなんですよ。

渡辺:
鈴木さんは、どう答えるんですか?

鈴木:
それでぼくは「最初は出会いですよね。二人が愛を育む。起・承・転って、すれ違いが生じる」って言ったのをぼくはよく覚えてるんです。そしたら「鈴木さん、わかった! ソフィーは魔法をかけられ、おばあちゃんになる、これがすれ違いだ。だから、そういう映画を作るので皆さん、よろしく」って言って終わりなんです。天才ですよね。ぼくね、ここまで付き合ってきて、いまだに飽きないです。そういう連続です。

渡辺:
鈴木さんは、天才を支える天才ですよね?

鈴木:
ぼくは普通のことをやっているだけなんで。見ていて、楽しくてしょうがないんです。何を言い出すかわからないんだもん。

渡辺:
このジブリの中の出来事なんですけど、高畑さん、宮崎さん、鈴木さん、長男・次男・三男なのか、親子なのかわかりませんけど。この三人のやりとりって、映画とかアニメーションになったら、すごい面白いですよ。

鈴木:
演出が難しいと思いますね。人を笑わせようとして、わざとしているストーリーに思われがちじゃないですか。でも、ほんとうなんですよね。こういう話は、事欠かないぐらいあるんですよ。

『レッドタートル』を観て、『アラビアのロレンス』を思い出した。

渡辺:
『レッドタートル ある島の物語』のパンフレットの中に、マイケル監督へのインタビューがあるんです。「なぜ、レッドタートルなのか?」と聞いて、次に「なぜレッドなのか?」と聞いて、さらに「なぜタートルなのか?」と聞いています。ものすごく直球な質問が文章になっているんですけれども、できあがったものをご覧になって、どう感じましたか?

鈴木:
できたものを途中から、絵コンテやライカリールをずっと観てきているでしょ? 実際の映像に差し替わってみたときに、ぼく思い出したのが、『アラビアのロレンス』というデヴィッド・リーン監督の映画が大好きで、宮崎駿も大好きなんですよ。これ観ると、宮崎作品の秘密がわかったりするんですけど。
『アラビアのロレンス』っていまから7、8年くらい前に、再上映されたことがあるんです。ぼくが高校生の時の作品で、それ以来ビデオも含めて、何回も観ていたんですけど、再上映のときに大きいスクリーンで観たら、発見があったんですよね。砂漠に対して人間が小さいんです。それをビデオで見ていると、早回ししたくなるようなシーンなんですよ。ところが、映画館でじーっと観ていたら、ハッと気づかされるんですよ。一人の一生なんて短いものでしょ。何千年の歴史、もっとあるかもしれない、砂漠の中のちっぽけな人間たちが、この砂漠の地を巡って争いをやっているという映画なんですよ。それを思い出したんです。
マイケルが、そういう影響を受けたかはともかく、やっぱり人間も自然の一部であると、それを身をもってちゃんとやりたかったんだろうなって思います。『アラビアのロレンス』『ライアンの娘』『ドクトル・ジバゴ』もいい映画なので、観てください。ほんとう素晴らしい映画ですよ。
三本観てください。それで、宮崎駿の作品と比較対象すると、いろいろ勉強になることがあるんですよ。

渡辺:
『レッドタートル ある島の物語』は10年の歳月をかけて作られましたけど、ほんとうに美しい映画ですよね。

鈴木:
島の全景がところどころに出てきますが、これが素晴らしい。『レッドタートル ある島の物語』のタイトルは、最初は「レッドタートル」だけでした。そこに、サブタイトルとして、「ある島の物語」にくっつけたのは、池澤夏樹さんっていう作家なんです。彼に絵本をつくってもらったんです。本編では、登場人物が何もしゃべらないのですが、池田さんの絵本は島が語るんですよね。憎かったですよね。あのおじさんはすごいなと思って。

渡辺:
谷川俊太郎さんのコピーと、池澤さんのお書きになった文章が、大博覧会で出ていますけど、とても素敵ですよね。

鈴木:
なんかねぇ、ジジイたちが頑張ってますよね。

レッドタートル ある島の物語/マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット作品集
『レッドタートル ある島の物語』をはじめ、『アロマ・オブ・ティー』『父と娘(旧題:岸辺のふたり)』『お坊さんと魚』『掃除屋トム』『インタビュー』 を収録。

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