ジブリ美術館短編作品『崖の上のポニョ』というと、パステル調の淡い絵本のような背景美術を使用して、これまで追及されてきたリアルな背景美術とは違いますよね。
ジブリ作品のなかで、突然、テイストの違うものが作られた印象をもつ人もいるんじゃないかと思います。
いくつもの実験的な試みが行われていますが、それらは決して思いつきで行われたものではありません。



崖の上のポニョ

『ポニョ』が作られる以前から、宮崎駿監督はこれまでのジブリ作品とは一線を画した作風を試みてきました。それは、これまでジブリ美術館で制作してきた短編作品、『やどさがし』『水グモもんもん』『コロの大さんぽ』のなかに存在します。
「崖の上のポニョ ロマンアルバム」に収録された、鈴木敏夫プロデューサーと、近藤勝也さんのインタビューを引用してご紹介します。
『崖の上のポニョ』ロマンアルバム(宮崎駿監督作品)

 

やどさがし

『やどさがし』では、背景美術を含むすべての絵をシンプルにして、効果音も声で表現されました。
アニメーションの面白さを追求した作品で、『ポニョ』においても地面や建物が歪んでいたり、手描きの面白味が残されています。作画監督は、両作とも近藤勝也さんです。
ちなみに、『やどさがし』で効果音を担当した矢野顕子さんは、『ポニョ』でも声優に参加しています。

やどさがし

――スタッフに関してですが、今回近藤勝也さんを起用なさった理由はなんでしょう?

鈴木:
美術館短編の『やどさがし』で手応えを感じたからです。それと、ちょうど(近藤さんの)娘さんが生まれて、子どもものをやるには一番ふさわしいだろう、子どものことはよくわかるだろう……それが大きかったですね。主題歌の作詞も、彼にお願いしましたしね。

――『やどさがし』には、実験的な要素も含めて既に本作の萌芽があるように思えるのですが、その部分での手ごたえがあったことも?

近藤:
宮崎さんの中には、「このエッセンスで何かやれるんじゃないか」という手ごたえはあったと思いますし、僕の中にもこの方向をちゃんと真面目にやった方がいいんじゃないかという気持ちはありました。

 

水グモもんもん

『水グモもんもん』は、水中の自然描写や水グモの生態などが、後の『ポニョ』の海中シーンを想起させるものがあります。作画を担当しているのは、『水グモ』と『ポニョ』共に田中敦子さんです。

水グモもんもん

鈴木:
原画の田中敦子さんなんかは、『水グモもんもん』で水の中を描きまくった経験があったから、冒頭のシーンを描くことができましたしね。そういう意味では、これまで美術館短編でやってきた数々の実験が、『ポニョ』で実を結んだと言えますね。

 

コロの大さんぽ

『コロの大さんぽ』では、美術を吉田昇さんが担当。これまで追及されてきたリアルな背景美術とは、まったく違います。パステルや色鉛筆などを使った淡い絵本のような背景美術を取り入れ、『ポニョ』の美術イメージへステップボードの役割を果たしました。

コロの犬さんぽ

鈴木:
美術監督の吉田昇さんにしても、美術館短編の『コロの大さんぽ』があったからです。ジブリの今までの背景って、自然そのまま、本物そっくりに描くという路線だった。でも今回は、絵本というかデザインチックな背景でやりたいというのがあって、それが『コロ』で既にできていたんですね。

ジブリ美術館の短編作品で行われた実験は、結果的に『崖の上のポニョ』で結実に至りました。
これから作られるであろう短編作品も、今後のジブリ作品の新たな種となるかもしれません。短編作品にも注目ですね。

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