鈴木敏夫が語る 落合博満論11月2日の朝日新聞に掲載された、鈴木敏夫さんの“落合監督論”が面白かったので引用します。画像はこちらから頂きました。
これまでジブリを操ってきた経験を基にした、鈴木さんならではの落合監督の見方は新鮮です。
落合監督はジブリで言えば宮崎駿であり、プロデューサーやパトロンが必要だったと分析しています。

また、2010年12月1日の「ジブリ汗まみれ」では、落合監督と鈴木さんが少しだけ対談をしています。こちらもオススメです。
 



語られぬ真意 理解されず

 あの人は「オレ流」じゃないです。現役時代から、落合ほど試合中、他の選手に声をかけ励ます人はいなかった。毎年、中日ドラゴンズの全試合のテレビ中継を録画して見続け分かったのは、公式戦の100試合目ぐらいまでは延々とチームづくりを続けているということです。
 例えば、凡退続きの若手選手に当然代打を出すべき場面でそのまま打たせ、やっぱりダメだった、というケースが極めて多い。選手たちに機会を与え、育てているんです。それが一番成功したのが荒木、井端の二週間でしょう。毎試合、チームづくりの過程を見るのは、映画づくりを間近で見るのと同じ喜びがあります。球団の経営陣やファンのことより、常に選手を最優先に考えている。今のプロ野球界では稀有な存在です。
 ラジオ番組の取材などで直接会う機会があるのですが、僕にはこう話してくれました。「選手は繊細だ。悪口を言っても褒めてもダメになる」って。だから、マスコミの前で選手の個人名を決して口にしない。照れ屋ですから、自分の采配についても説明や弁護をしない。

 落合野球は「なぜああいう采配をしたのか」という謎を、見る側にかけてきます。それを解くのが僕は楽しくてしょうがない。でも、そういう面白さは一般のファンには伝わりづらい。もっと多くのマスコミが落合野球の本質を報道していれば、今シーズンで退任という事態にはならなかったかもしれません。
 「落合野球を世間に向けてどうプロデュースするか」という問題もあったと思います。落合さんはプロデュースする側から見れば最高の監督、ジブリで言えば宮崎駿です。宮崎監督の映画にも謎や面白さがたくさん隠れている。僕はそれをどんどんネタばらししてしまう。観客もそれを知るべきだ、と思うからです。落合監督にもプロデューサー的な人がつき、本人に代わって情報発信する、というやり方もあったのではないか。
 退任の原因の一つに、12球団随一のコーチ陣にかかる人件費の高騰があったと聞きます。ビジネスとしては問題でしょうが、落合野球には欠かせない。宮崎監督もそうですが、才能のある人はお金を使う名人でもあります。室の高いチームを作るには、採算性にこだわるだけではなく、野球を「お金を使う道楽」としてみるパトロン的要素も必要だと思います。
 昔から芸術はパトロンが支えていた。ジブリにも徳間書店の徳間康快社長や日本テレビの氏家斉一郎会長というパトロン的理解者がいました。そもそも、中日の白井文吾オーナーがパトロン的独断で落合さんを監督に就任させたから、落合野球が実現した。プロ野球の経営陣に報道好きなパトロンが増えれば、もっと面白くなるんじゃないかなあ。

ジブリ汗まみれ – 鈴木敏夫、中日ドラゴンズ落合監督を探る
http://www.tfm.co.jp/asemamire/index.php?itemid=36044