「CUT9月号」のインタビューから、宮崎駿監督の次回作が「風立ちぬ」ではないかと噂になっていますが、実際はどうなるでしょうか。
発表が待たれるところですが、今出回っているキーワードを一通りまとめてみましょう。



CUT 9月号の内容

「関東大震災のAパートのラフコンテを切り終わった時に、震災が起こって」

「ファンタジーじゃないと思います。ファンタジー的要素はもちろんありますけど。でも、ファンタジーではない」

「今度の映画には大群衆シーンがいっぱい出てくるんですよ。これまでやらなかったことですよね」

「戦争の道具を作った人間の映画を作るんですけど、スタッフにも女房にも『なんでそんな映画を作るんだ?』って言われて」

「その男はその時の日本の、もっとも才能のあった男なんです。でも、ものすごく挫折した人間なんです。物造りを全うできなかったから、敗戦の中でね、ずたずたになっていったんですよ。でも僕は彼が『美しいものを作りたかった』ということをポツっと洩らしたということを聞いてね、「これだ!」 と思ったんです」

以上の内容から、次回作は、モデルグラフィックス誌で連載していた「風立ちぬ」ではないかと噂になっています。

それから、ジブリ特集をした去年の「BRUTUS (ブルータス) 」を見ていたら、宮さんの本棚を撮った写真に、「風立ちぬ」が写っていました。手前に置かれているので、きっとこのとき読んでいたんじゃないでしょうか。

「風立ちぬ」は、零戦を設計した堀越二郎さんを描いた作品です。
「美しいものを作りたかった」というエンジニア的発言は、まさに堀越二郎さんのものと思われますが、「風立ちぬ」をそのまま映画化するかというと、少し疑問があります。
というのは、鈴木敏夫プロデューサーの「宮崎駿監督の新作は自伝になる」という言葉。

宮崎駿の父は、戦時中は戦闘機を作る工場で働いていたと言います。
きっと、「風立ちぬ」がベースになるのだろうけれど、そこに自分の父も投影したような作品になるのではないでしょうか。

それから、Aパートで起きるという、関東大震災。
「千と千尋」を作るときに、もう一つ「煙突描きのリン」という企画がありました。
関東大震災後の話で、大阪からやってきた画学生リンが、風呂屋の煙突に絵を描くことを条件に使用人部屋に住まわせてもらうというお話です。

そして、以前、テレビのインタビューで、新作の構想を尋ねられた監督が、「映画にならないけれどやってみたい」と言っていた話が、非常に興味深かったです。
これらの、温めていた企画が、次回作に反映されるのかどうか、気になるところですね。

インタビューを文字に起こしたので、どうぞご覧ください。

宮崎:
関東大震災がくる前の東京を舞台にして、江戸がずいぶん残ってるんですけど、めちゃめちゃになってるんですね、乱開発で。
そこを舞台にして、芥川龍之介がまだ学生で、そのときに文学ではなくて探偵をやってしまうっていう。それで漱石も相談を受けながら、ものすごくトンチンカンな推理をしてるっていうね。そういう愉快な映画を作れないかなとかね。

――それはノンフィクションの部分も入っているんですか?

宮崎:
いや、全然。
芥川龍之介ってやつは、ものすごくいいやつなんですよ。
シニカルな顔した写真が出回ってるから、(取っ付きにくい)…と思ってるけど、実にいい若者ですよね。
そのいい若者の彼が、死ななきゃいけなかったっていうのは、やっぱり大正から昭和にかけての、日本の時代の持っているなにかだと思いつつ、そういうことを描くよりも、元気のいい龍之介と、それからお札の漱石とは全然違うね、髪の毛も薄くなってヒゲもチョボチョボになってるね、ほんとうに老人になってる漱石が軽妙な会話をするっていうのをやってみたいですね。

――今までの路線と全然違いますね。

宮崎:
はまりようがないですよね。
実写でやるかっていったら、ロケ地が作れないですよ。震災前の東京作るっていうのは、ほんとうに難しい。坂道もいっぱい多いなかでね、道も舗装されていない、砂利も入ってないようなとこが、いっぱいある。
それをやるとしたら、アニメーションしかないのかってなると……。それで、やって良いなら、いろんなことが出てくるわけですよ。そういうことが商売になるなら(やってみたい)。
ならないんですよ。自信をもって言いますけど。

――でもやりたいんですね。

宮崎:
うん。やりたいけど、やらないですね。
でも、チャンスがあったら、なにかやれないかなって、グズグズ考えてるのが何本もあるんですよ。