熱風 iPad

スタジオジブリ発行の 熱風 7月号にて、宮崎駿さんがiPadに痛烈な批判をしていると、ツイッター上で話題になっていたので、さっそく読んでみました。

確かに、言葉はかなりきついところはありますし、きっと、この内容には賛否あると思いますが、宮崎駿さんの言いたいことは、最後の一文の「あなたは消費者になってはいけない。生産する者になりなさい」ということ、なのかなと思いました。



熱風 iPad

――今日は宮崎駿監督にiPadをきっかけにして監督の「情報技術との関わり方」を聞きたいと考えています。

宮崎:
あなたが手にしている、そのゲーム機のようなものと、妙な手つきでさすっている仕草は気色わるいだけで、ぼくには何の関心も感動もありません。嫌悪感ならあります。その内に電車の中でその妙な手つきで自慰行為のようにさすっている人間が増えるんでしょうね。電車の中がマンガを読む人間だらけだった時も、ケイタイだらけになった時も、ウンザリして来ました。

(中略)

――でも、これがあれば、例えばメールなどによって人と会わずに仕事が進み、わざわざ人の多い東京で暮らすこともなくなります。田舎に住んでいても仕事が出来るのでいいと思うのですが。

宮崎:
田舎で仕事が出来る人間は、それがなくても出来ますよ。出来ない人間は、何を持ったって出来ませんよ。

――これからの流れとしては、机に置くようなパソコンが消えていき、こういうiPadのような持ち運びできるものが増えていくと思うのですが。

宮崎:
それで何がどうなるの?

――いつでもどこでも手に持てていいと思いますが……。

宮崎:
恋人といる時も手に持って、討論している時も手に持って……手に持たないでいっそ頭に埋め込んだら(笑)。机の上にパソコンがあるだけで、うつ病になる人が増えたんだから頭に埋めたら、漱石が予想したとおりみんな神経衰弱で自殺するでしょうね。

――道具として使いこなせばいいのではないでしょうか。

宮崎:
道具には、鉛筆と紙と、わずかな絵具があれば充分です。

(中略)

――どう扱うかの問題だと思います。

宮崎:
じゃあ、ためしにあなたのiナントカで、ぼくの知りたい事を調べてくれますか? 安宅型軍船の漕手の給水はどうやってたのか? めしはどうしてたのか? 行動中の漕手の交代は出来たのか? 櫓がぶつかったら何がおこるのか? ……いくらでもあります。戦闘になったら、漕手には外はまったく見えないので、どういう心理状態の中にいたのか? どこにも出てませんよ、確信できます。あなたのiナントカで出て来る画像なんぞ参考になりません。八王子の信松院にある武田の安宅の模型や船の科学館の模型の方がずっとましです。ぼくが知りたいのはソフトの部分なんです。それは、他のいろんな記録や文書から推測するしかないんです。

――時間をいただけるなら、文献を調べて取り寄せることも出来ます。このiPadで。

宮崎:
あなたの人権を無視するようですが、あなたには調べられません。なぜなら、安宅型軍船の漕座の雰囲気や、そこで汗まみれに櫓を押しつづける男達への関心も共感にもあなたは無縁だからです。世界に対して自分で出かけていって想像力を注ぎこむことをしないで、上前だけをはねる道具としてiナントカを握りしめ、さすっているだけだからです。
一刻も早くiナントカを手に入れて、全能感を手に入れたがっている人は、おそらく沢山いるでしょう。あのね、六〇年代にラジカセ(でっかいものです)にとびついて、何処へ行くにも誇らしげにぶらさげている人達がいました。今は年金受給者になっているでしょうが、その人達とあなたは同じです。新製品にとびついて、手に入れると得意になるただの消費者にすぎません。
あなたは消費者になってはいけない。生産する者になりなさい。