「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」にて、日本テレビの新入社員向けに行なわれた、鈴木さんの講義が公開されています。
ここで語られている、人間関係のなかからジブリ作品に影響を及ぼす話が、とてもいい話です。

『風立ちぬ』のなかで、不思議な味を出していたキャラクター、カストルプの誕生秘話の部分を、文字に起こしました。お別れ会で似顔絵を描けなかった「悔い」が、創作の動機となるのは、クリエイターらしい話ですね。

日常の人と人の繋がりによって物語が生まれるというのは、人生においても言えることかもしれませんね。



出会いが物語となる

鈴木:
ジブリで、ずっとお世話になった、スティーブン・アルパートっていうアメリカ人がいたんですよ。ジブリで務めて、働いていたんです。
ジブリが世界を相手にいろいろやっていくときの窓口として、ほんとうに頑張ってくれた人なんですよ。

それで、アルパートさん、略称で「アルちゃん、アルちゃん」って呼んでたんだけどね。お母さんが病気になっちゃったんで、アメリカに帰らなきゃいけない。
それを聞いた宮さんなんかは、ほんとね、寂しがるっていうのか、悲しがるっていうのか。仕事を越えて、彼には友情を感じていたんですよね。

それで、ある日、ぼくは宮さんに相談されました。「なにか、記念になるものをプレゼントしたいけど、なにが良いんだろう」って。
それで、ぼくは言ったんですよ。「宮さん、絵を描くんだから、似顔絵描いたらどうだ」と。そしたら、その次の日から、せっせと宮崎駿は似顔絵を描き始めるんですよ。

しかし、描けないんです。で、そうこうするうちにね、ほんとに少人数だったんだけれど、アルちゃんとのお別れパーティを10人くらいでやったんですよね。
そこに、ほんとうは、その絵を持ってくるはずが、宮さんは持って来れない。それで、アルちゃんはアメリカに帰っちゃうです。

それで、この話は終わるかなと思っていたら、今度の映画、『風立ちぬ』。観ていたら、ちょっと驚いたんですよね。
というのは、ある日。絵コンテを描いていくうちにね、ある外国人が登場したんです。そしたら、それがなんと、アルちゃん。
まったく同じ顔してるんですよ。で、宮さんに「あれ、アルちゃん?」、「うん…」とか言って、「やっとか描けた」って。

で、映画のなかで、その人が実は重要な役割、なんと今回の主人公、二郎、そして菜穂子のキューピッド役を務める。尚且つ、それだけじゃない。この人はね、もうひとつ時代の影を背負った、重要な人物として登場。

で、宮さんが言い出したんですよ、「鈴木さんさあ」って。「なんすか?」って言ったら、「この声を誰にやってもらうか……」。「え、アルパートさん? アメリカから呼ぶんですか?」って。こないだね、呼んだんですよ。

それで、彼にやってもらったらね、ほんとうに良いシーンになったんですよ。これ、なんか面白い話でしょう?
だって、アルちゃんのことがなかったら、あの外人は、あの物語に登場したかどうか、分かんないんだもん。

 

スティーブン・アルパートさんの話

宮崎駿とスティーブン・アルパート
2011年の暮れまで、スタジオジブリでスティーブン・アルパートさんという方が働いていた。海外事業部に所属し、宮崎監督が海外に行く際には必ずアテンドし、いつしか仕事を超えた友人になっていた。家庭の事情でアメリカに帰国するアルパートさんに似顔絵をプレゼントしようと、宮崎監督は何度も挑戦するが、帰国当日までに満足のいく似顔絵を描くことができないままアルパートさんの帰国の日となった。そして次の年。「風立ちぬ」の絵コンテの中にアルパートさんが描かれていた。
描けなかった似顔絵を絵コンテに登場させた宮崎監督。そしてそのキャラクターに声を吹き込むためだけにアメリカから来日したアルパートさん。2人の友情が作り上げたキャラクターは二郎と菜穂子を結ぶキューピット役を担い、そして世情を表現する重要な役となって完成した。

 
ジブリの海外展開を進めた立役者
ジブリの海外部門の責任者スティーブン・アルパートさんが、昨年一杯で退職しました。徳間インターナショナルの頃から15年の長きに亘り、ジブリの海外展開を進めてきた立役者です。宮崎駿監督の代理でオスカー像を受け取ってきたのもアルパートさんでした。本当にお世話になりました。


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