雑想ノート 最貧前線宮崎駿監督が第2次世界大戦をテーマに描いた漫画『最貧前線』が、今年の夏に水戸芸術館によって舞台化されます。この脚本は、劇作家の井上ひさしさんの甥で、同芸術館ACM劇場芸術監督の井上桂さんが手掛けていることがわかりました。漫画は5ページの短いもので、「月刊モデルグラフィックス」にて連載された短編モノ。書籍化もされており、『宮崎駿の雑想ノート』に収録されています。



大戦末期、ほとんどの軍艦を失っていた日本海軍は漁船を徴用し、特設監視艇として海上の見張りをさせた。しかし、装備している武器はわずかで、大半は戻って来なかった。主人公の漁師や軍人はそんな状況の中で敵の爆撃機に立ち向かい、何とか帰路につく。最後の1コマに、「平和が何よりだノオ…」と書かれており、そのセリフが強く記憶に残ったといいます。

『雑想ノート』は1995年にラジオドラマ化もされており、このときに井上さんは話を膨らませればもっと面白くなると思い、独自に資料を集めて台本を書き上げたそうです。しかし、このときは、スタジオジブリと何のパイプもないため舞台化には至りません。

時は流れて2016年。この年に井上さんは、NHKエンタープライズのエグゼクティブプロデューサーと出会います。たまたま井上さんが書いた台本が話題に上がり、読んでもらうと「今が舞台化できるタイミングでは」と意見をもらいます。

最貧前線

井上さんは、舞台化に向けて改めて資料を調べ直し、ネットを通して20年前はほとんど見つからなかった漁師の体験談など見つけます。体験談を読み進めて気づいたのは、皆が戦争は「こりごり」だと思っていること。やはり、最後の1コマのセリフと重なった。「平和が何よりだノオ…」

2017年4月に、井上さんはスタジオジブリを通して宮崎駿監督に企画書を送ったところ、即日舞台化の許可が下りました。井上さんは「一企画者ではありえないことで、水戸芸術館の芸術監督という立場があってこそ実現できた。全国の公共劇場で上演し、宮崎さんの作品に込められた平和へのメッセージを、より多くの人に共有してもらうことが、芸術館の任務だ」と抱負を語っています。

舞台『最貧前線』は、主演の内野聖陽さんを始め、風間俊介さん、溝端淳平さんら豪華キャストが出演。水戸芸術館、東京、愛知など国内の公共劇場8ヶ所で上演予定です。

宮崎駿の雑想ノート
兵器と人間が織りなす、バカバカしい狂気の情熱を描く13編。「最貧前線」も収録。

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