ゲーム情報サイトの「4Gamer」にて、スタジオジブリでプロデューサー見習い中の、ドワンゴ代表取締役会長の川上量生さんへのインタビューが公開されました。

独創的な発想をもった川上氏が、スタジオジブリに入り、鈴木敏夫のもとで何を見て何を学んでいるのか、たいへんためになるインタビューだと思います。



一部を引用しました。全文は「4Gamer」にてご覧ください。
http://www.4gamer.net/games/000/G000000/20110628048/

4Gamerでは,川上氏に話を伺う機会を得て,氏が何を考え,何を目指してスタジオジブリに入社したのか。氏の問題意識や視点,あるいは関心の向く先など,さまざまなことを聞いてみた。

――本日はよろしくお願いします。まず,そもそもスタジオジブリに入社するキッカケはなんだったんですか?

川上:
ひょんなことから,スタジオジブリの鈴木敏夫さんにお会いする機会がありまして。その成り行きで,鈴木さんのやっている「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」というラジオに出演させていただいたんですが,その時にどうしても鈴木敏夫プロデューサーに弟子入りしたいと思い立ってしまって,その場でお願いしました。

――元からスタジオジブリへの興味があっただとか,あるいは川上さん自身がニコニコ動画を含めて,ドワンゴの今後に対する問題意識みたいなものがあってスタジオジブリの門戸を叩いた――というわけではなく?

川上:
スタジオジブリへの好奇心はもちろんありましたよ。多くの人がそうであるようにね。ただ,仮に好奇心があったとしても,それだけで「働かせてください」というのもどうなんだろう,とかやっぱり思うじゃないですか。

――まぁそうですよね。

川上:
そう考えると,スタジオジブリに入るためには「二つの理屈」が必要なわけですよ。それは,ドワンゴ社内に対してどう説明しようかなというのと,鈴木さんにはどうアピールしようかっていう二つです。

――なるほど。

川上:
で,鈴木さんに対しては,一応,ネットのプロモーションとかだったら僕は人並み以上にはできると思うので,「ネットのプロモーションをやらせてください」という部分でアピールしました。一方でドワンゴに対しては,「これからのドワンゴ/ニコニコ動画に必要なこと」を勉強する……という言い訳をして飛び出してしまいました。
僕は今まで着メロサイトも作ってきたし,ニコニコ動画とかもやってきましたけど,本当の意味でのマスマーケティングをやった経験はないので,ジブリっていう日本国民みんなに愛されるコンテンツが,一体どういう風に世の中に届けられるのかっていうのは,まったく未知の世界だったわけです。そして多分,それこそが,これからのニコニコ動画にきっと必要になってくる部分だろうなと。

――ネットのプロモーションというのは,ニコニコ動画を使った何か,みたいな話ですか?

川上:
いや,そこは別にニコニコ動画を前提に考えているわけではありません。スタジオジブリと何かをご一緒するというのは,ドワンゴ側にメリットがありすぎて恐れ多いですし。 それに僕もスタジオジブリの作品が大好きだからこそ思うんですけど,スタジオジブリのファンからすると,ニコニコ動画と一緒にやると言ったら,やっぱり「えっ?」って思う人が少なくないと思うんですよ。「神聖なジブリを汚すな!」みたいな(笑)。絶対に思うじゃないですか。思いませんか?(笑)

――え,えーと(笑)。

川上:
もちろん,楽しみに思う人もたくさんいてくれるとは思うんですけど,やっぱり反発する人もいるわけで。そういう反発する方に対して,まず「申し訳ない」という気持ちがありますよね。僕にしても,スタジオジブリを汚すつもりはまったくありませんし。
もちろん,それが必要だという話になれば,ニコニコ動画でも宣伝をするでしょうけど,スタジオジブリのブランディングと照らし合わせて考えてみても,別に無理やり宣伝をする必要もないのかなとは思っています。

――じゃあ川上さんは,スタジオジブリに入社してから何をされているんですか?

川上:
とても正直に言うと,大したことはしていません。だって,アニメ制作なんて一切関わったことがないんだから,基本的には何もできないんですよ。

――さっき,ネットのプロモーションをっていう話が出ましたが。

川上:
でもよくよく考えると,ネットを使ってスタジオジブリのプロモーションをガツガツやるというのも,ジブリらしくないじゃないですか。だから,入ったまでは良かったんですが,あんまりやることないなぁと(笑)。

――ええええ(笑)。

川上:
ちゃんと働かないといけないんですけどね。人として。

※編注:と言いつつも,最近発表されたスタジオジブリとKDDIのタイアップの裏側では,川上氏が結構活躍をしているらしい

――でも,鈴木さんには「スタジオジブリの映画の作り方を全部見せてあげる」と言われたそうじゃないですか。

川上:
はい。絵コンテから何から,鈴木さんが本当に全部の工程を見せてくれる。映画を作るほとんど過程を見せてもらっています。鈴木さんが出席する会議にも同席させていただいたり。

――それって物凄いことですよね。

川上:
凄いことだと思うし,とても勉強になってます。本当に,この歳でイチから新しい世界のことを学べるというのは中々できないですから。刺激になってますよ。

――素直に羨ましい……。鈴木さんが川上さんにそこまで入れ込む理由ってなんなんでしょう?

川上:
いや,実のところ鈴木さんに弟子入りを志願する人というのは,定期的に現れるらしいんですよ。だから鈴木さんは慣れているんですよね。「また来たか」っていう感じで(笑)。

――なるほど。確かに弟子入りしたがる人がいないわけないですもんね。

川上:
はい。だから鈴木さん側はあんまり驚いてなかったと思います。というか,スタジオジブリにはそういう人が多いんですよ。例えば,社長をされている星野康二さんという方も,元々はウォルト・ディズニー・ジャパンで社長/会長を務めた方ですし。
星野さんは,ご自身はまったくジブリに入る気はなかったらしいんですけど,いろんな会社から声がかかっている中で,家族に相談したら「どう考えてもジブリでしょ」って言われたらしくて(笑)。それで入ったんだという話です。

――会社の規模だけでいうと,ジブリは決して大企業というわけではないですけどね。

川上:
スタジオジブリは,ビジネスとかいろんなしがらみとか,そういう理屈を飛び越えて行き着く会社なのかもしれません。僕も入ってまだ日が浅いですけど,面白い経歴の人が多いなと感じています。銀行でスーパーエリートコースだったんだけども,不良債権の処理とかで心が疲れ果てて,辞めてジブリ美術館の中で働いているとか。

――川上さんも「面白い経歴」の一人ですけどね……。

ジブリは決して続編を作らない有名ゲームスタジオ

――そんな川上さんがスタジオジブリに入って驚いたこと,あるいは興味を持ったことって何かありますか?

川上:
そういうのはいっぱいありますよね。ありますけど……ありすぎて,何を言えばいいのかなって感じです。ただ,一つ強烈に思ったのは,スタジオジブリという組織は,言ってみれば地位を確立した会社ですよね。大御所的なものじゃないですか。

――そうですね。

川上:
だから,なんとなく「ゆったりと物を作っている会社なのかな?」と勝手に思っていたんですよ。でも,入ってみたら全然そんな感じでもなくて,物づくりにかける情熱というのも,物凄いものがある。

――スタジオジブリって,結果的に成功が続いているので「安定したビジネス」をしているように見えてますけど,実際は,毎回新しいことにチャレンジしている会社でもありますよね。

川上:
そうなんです。冒険する必要がない会社だってイメージがなんとなくあるんだけれども,実は常に凄い冒険をしていますよね。それも意識的に冒険を続けていて,その冒険のリスクの大きさたるや,これからが最高潮じゃないかっていうような状態なんですよ。
正直,こんな激しい状態の会社とは思わなかったです。今回の「コクリコ坂から」だって,今の時代にああいったジャンルの作品を出すというのは,大変なチャレンジだと思います。

――以前,テレビで放映していたスタジオジブリの特集の中で,鈴木さんが「一発しくじったら終わり」みたいな話をされていて驚いた覚えがあるんです。普通の会社であれば,ブランドなりIPを確立したら,それを軸に“安定する方向”に行ってしまうと思うんですけど,スタジオジブリほどのブランド力を誇る会社が,そこまでの心持ちで動いているのかと。

川上:
ゲーム業界で言えば,続編を作らないゲームスタジオってことですよね。

――ああ,確かに。続編を作らない超大手スタジオ,という感じかも。

川上:
ゲーム業界だったら,続編ということでより大きな予算がおりてくるわけですよね。ビジネス的には大丈夫だよね,続編だからリスクが低いよね,という判断の元に。
一方で,ジブリっていうのは毎回新しいこととか,毎回全然違う作品を作りながらも,より大きな予算を動かして,より大きな成功をつかんできている会社なんですよ。

――スタジオジブリの歴史って,興行成績で言うと「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」は,実はあんまりパッとしないんですよね。作品的には,それこそスタジオジブリの誇る代表作とも言える作品なんですが,あの「となりのトトロ」でさえ,当時の興行収入はそんなでもないわけです。
ジブリがいつ,どういう理由/プロセスで,これほどまでの国民的なブランドになり得たのかっていうのは,実はかなり興味深いですよね。

ジブリ作品の収入ランキング

順位 作品 配給会社 公開年度 配給収入 興行収入
1 千と千尋の神隠し 東宝 2001年 - 304億円
2 ハウルの動く城 東宝 2004年 - 196億円
3 もののけ姫 東宝 1997年 113億円 193億円
4 崖の上のポニョ 東宝 2008年 - 155億円
5 ゲド戦記 東宝 2006年 - 76.5億円
6 猫の恩返し/ギブリーズ episode2 東宝 2002年 - 64.6億円
7 紅の豚 東宝 1992年 28億円 -
8 平成狸合戦ぽんぽこ 東宝 1994年 26.5億円 -
9 魔女の宅急便 東映 1989年 21.5億円 -
10 おもひでぽろぽろ 東宝 1991年 18.7億円 -
11 耳をすませば/On Your Mark 東宝 1995年 18.5億円 -
12 ホーホケキョ となりの山田くん 松竹 1999年 7.9億円 -
13 風の谷のナウシカ 東映 1984年 7.6億円 -
14 となりのトトロ/火垂るの墓 東宝 1988年 5.9億円 -
15 天空の城ラピュタ 東映 1986年 5.8億円 -

※日本映画製作者連盟によるデータ。
※1999年までは「配給収入」が、2000年からは「興行収入」が用いられている。

川上:
そうそう。スタジオジブリの作品って,言っても2年に1回くらいしか出てないし,続編もない。それでいて,作品のテーマや雰囲気が似ているかというと,そういうわけでもないじゃないですか。

――例えば,「ポケットモンスター」や「ドラえもん」であれば,テレビやゲーム,コミック,映画など,さまざまなメディアでの展開を駆使して,ブランドを確立/維持しているわけですけど,スタジオジブリはそれらともちょっと違いますよね。

川上:
ドラえもんの映画とかポケモンの映画とかって毎年公開されてますからね。

――あれはあれで,もう定例行事ですしね。

川上:
スタジオジブリの作品も,テレビで定期的に放映はされていますけど,大きな露出という意味ではそのくらいですよね。それに,みんなが「これで本当に大丈夫かな」と思うような作品が中にはあったり,「これはジブリファンが求めているものとは違うんじゃないか」っていう作品も出したりしていて。それでも結果的には,そのいずれもが大ヒットしているわけです。だからもう,これは一体どういう仕組みになっているんだと思うしかないわけですよ(笑)。

――そんなスタジオジブリから,川上さんは何を学ぶつもりなんでしょう?

川上:
んー……。建前として「勉強するため」とは言っているんですけど,白状すると,本当はあまり勉強する気もないんですよね。ただ純粋に,今はスタジオジブリにいることが楽しいんですよ。

――楽しい?

川上:
うん。マーケティングだとかビジネスモデルだとか,そんなことじゃないです。僕がスタジオジブリに入って,今,何に興味を持っているのかと言えば,それもう「宮崎 駿」「鈴木敏夫」「高畑 勲」という3人が,これからどんな物語を織っていくのかということなんですよ。
 日本のアニメーション業界,いや,コンテンツ業界を支えて来た彼らが,人生の終盤を迎えて,それぞれあと1作品,できても2作品くらいしか作れないかもしれないわけですよね。その過程で,一体どんな生き方をするのだろうと。そこが僕が一番知りたいところで。

――それは確かに。

川上:
スタジオジブリに入る前は,僕はミーハーにも「ナウシカ2は作らないのかな?」みたいなことを考えていたんですけど,今はもう,ナウシカ2とかどうでもいいというか。むしろこの大事な時期に,続編は作ってほしくない。日本のアニメを支えた巨人達が,最後に何をやるのか。何を残していくのか。本当に興味があるんです。

記事の全文は「4Gamer」にてご覧ください。

スタジオジブリに入社したドワンゴの川上量生氏が見た,
国内最高峰のコンテンツ制作の現場とは

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