伝  説の映画美術監督たち×種田陽平『思い出のマーニー』の美術監督を務めた種田陽平さんが、国内外の美術監督に仕事の哲学を聞いたインタビュー集『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』の中で、高畑勲監督と対談しています。
美術の話を中心に、高畑・宮崎の初期作品から、ジブリ作品の話まで語りつくしています。



演出について、かなり掘り下げて語られており、高畑勲監督の演出論を知るために必読の一冊となります。

『ホルス』の美術については、北欧やアイヌの文化やデザインを取り入れた風景ながら、どこにも取材に行かずに作られたそうです。北海道や北欧ということは考えず、親しみのある武蔵野の雑木林を描いたといいます。

『ホルス』において、カメラがよく動くのは、高畑さんが映画ファンであること関係しているそう。移動ショットの魅力をジャン・ルノワールの『どん底』(36年)を見て教わったそうです。
縦の構図や移動撮影は溝口健二やウイリアム・ワイラー、オーソン・ウエルズ、アルベール・ラモリス、ポール・グリモーなどを挙げました。

そのほか、美術の話を中心に、『アルプスの少女ハイジ』や『赤毛のアン』『パンダコパンダ』など、高畑・宮崎作品から、ジブリ作品の話まで語りつくしています。
どのような演出を意図をもって背景が描かれたのか、ジブリ作品を見る上でも幅の広がる一冊です。
一部書き起こしました。

高畑勲が語るアニメーション美術

伝説の映画美術監督たち×種田陽平

種田:
僕は高畑さんが東映動画に入社した翌年の1960年生まれで、物心ついて初めて見た映画が、高畑さんが演出助手で入られた『わんぱく王子の大蛇退治』(63年)でした。テレビでも高畑さんも演出された「狼少年ケン」(63年)や「少年忍者 風のフジ丸」(63~64年)に夢中になった。中でも高畑さんの初監督作『太陽の王子ホルスの大冒険』(68年)は特別な作品で、当時小学校3年生でしたが、映画館で3回も見たんです。今、実写の映画を作っていますが、ときどき、ふと、ホルスとヒルダが出会う湖に沈む廃村の風景を思い出したりする。あの作品が原体験的に自分の中に染みついているので、高畑さんに一度、日本のアニメーションについて伺いたかった。東映動画に入られたのは、第1作の長編『白蛇伝』に感じてですか?

高畑:
いえ、入社が決まった後に見たんです。しかも、それまで見ていたディズニーやグリモーと比較して、『白蛇伝』はまだまだだな、なんて思って、ところが、いざ東映動画に入ったら、そんな見方がガラっと変わった。アニメーションを作ることがどれだけ大変かがわかって謙虚になったんです(笑)。
それで、弱点よりいいシーンに目がいくようになったし、いろんな工夫にも気がついた。

種田:
例えばどういう工夫でしょうか?

高畑:
東映動画作品はみんな横長のワイド、いわゆる東映スコープで作られるんですが、動画用紙もセルもえらい横長で作業がしにくいし、実写も同じですが演出的にも特別の工夫が必要だったんです。ディズニーも『眠れる森の美女』からワイドになった。ところが第一作の『白蛇伝』は4:3の昔のスタンダードサイズ。いまはワイドもすたれて、TVを含め、ビスタサイズが映像の標準になっていますが、『白蛇伝』では、昔ながらの4:3のよさが生きていた。大工原章という大先輩のアニメーターが描いたヤマ場は、大海原の荒波の上の場面なんです。左右が狭い構図だから、実際の大波だったら短時間の間に画面内で大きな高低差は出ないはずなのに、大江原さんは無理矢理その中に大きな起伏をぎゅっと押し詰めて描いていたんです。いわゆる親善の雄大さは出ないんですが、画面の中を丸っこい波が高くなったり低くなったり、まさに波乱万丈、アニメにふさわしい箱庭的楽しさがあって、なるほどなあ、と感心したんです。

種田:
『わんぱく王子の大蛇退治』は高畑さんの演出助手としての最後の作品ですが、子ども心にカラフルで楽しい印象が強かった。今、見直しても、抽象性が高く、デザイン性に優れた作品ですね。

高畑:
その通りです。東映動画史の中でもあの作品は異質なんです。実はその前に61年の『安寿と厨子王丸』、62年の『シンドバッドの冒険』ときて、たずさわったスタッフは、このままの路線ではダメなんじゃないか、もう煮詰まってしまったと感じていたんですね。絵的にも内容的にも、で、そういう若手の力に押されるようにして、『わんぱく王子の大蛇退治』では、監督には若い芹川有吾さんを完全に独り立ちさせて、みんなが慕う森康二さんを中心に据え、初めて作画監督制を導入したんです。森さんはすっきりしたデザイン的なセンスの持ち主だったし、美術を担当したのが日本画出身の小山礼司さんで、彼は宣言するんです、「マッスよりフォルムを」って、量感や立体感ではなくて、デザイン性・平面性で勝負しよう、ということですね。

伝説の映画美術監督たち×種田陽平
国内外で活躍する美術監督・種田陽平が、 映画の黄金期を支えた美術監督の貴重な証言を通し、
“伝説の美術監督”13人の技術、ノウハウ、哲学を現代、そして未来に引き継ぐインタビュー集。

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